われわれは,まだ光のすべてを理解していないアリゾナ大学 光科学部 偏光研究室 Russell A. Chipman
ニュースから日本に興味。書ける漢字は300字超
聞き手:まずは,「Chipman」という名前は日本ではあまりなじみのないものですが,お名前のルーツをご存じでしたら,お伺いできますでしょうか。Chipman:「Chipman」は古いイギリスの名前ですが,あまり一般的ではないので,米国でも恐らく8000家族ぐらいだと思います。
聞き手:日本語がご堪能ですが,日本語を学ぼうとしたきっかけは?
Chipman:1960~80年代の米国では日本のニュースが多く流れていましたので,日本について非常に興味がありました。それで,妻と一緒に日本語の勉強を始めたのです。米国の大学における日本語の授業では,2カ月でひらがなを,次の2カ月でカタカナを学び,その後,漢字を習います。しかし,米国国務省の試算によると,彼らが外交のため他国の言語を習得するには,スペイン語は2000時間,ベトナム語は3000時間,韓国語は8000時間,中国語は1万5000時間,そして,日本語を習得するには2万時間必要だとされています。日本語の漢字には音読みと訓読みがあり,その他にも丁寧語,尊敬語,謙譲語などがありますから,習得するにはとても時間が掛かりますよね。私は今も独学で日本語の勉強をしており,漢字も300字ほど書けるんですよ。
聞き手:Chipman先生が光学分野に進まれたきっかけ,また,光学に魅了された理由をお聞かせください。
Chipman:高校の時に物理に魅了されてから,物理学や数学の本を読み,数学の探究をしました。それでマサチューセッツ工科大学(MIT)に進学し,さまざまな物理学に出合いますが,多様な物理学実験コースの中で最も面白いと感じたのが「光学」でした。太陽の自転を測定したり,分光器で赤外線の波長のパターン振動を測定したり,とても面白い授業でした。ですから,卒業後の就職先に光学系の会社を探し,ハッブル宇宙望遠鏡の仕事に就くことができ,とても素晴らしい出発となりました。
聞き手:その後,1987年にアリゾナ大学の光科学部で博士号を取得されますが,アリゾナ大を選ばれた理由は?
Chipman:アリゾナ大は光学系を研究するにはとてもいいところです。私自身としては,アリゾナ大の光科学部は,とても活動的でエキサイティングであり,この分野に非常にたけた学部だと思っています。現に,教える側となった今でも,私は学生と一緒になってワクワクしながら研究をしています。 <次ページへ続く>
Russell A. Chipman(ルッセル・チップマン)
1976年マサチューセッツ工科大学学士号取得(BS)。1977年パーキンエルマー社に光学エンジニアとして勤務。1978?1981年ベックマン・インスツルメンツ社に物理学者として勤務。1982?1985年アリゾナ大学大学院にリサーチアシスタントとして勤務(1984年アリゾナ大学光科学部で修士号取得(MS))。1987年アリゾナ大学光科学部で博士号取得。1987?1997年アラバマ大学のハンツビル校に物理学准教授として就任。1997?1998年ジョンソン・エンド・ジョンソン社に光学関連部門のマネジャーとして勤務。1999?2000年TeraStor社に光学関連部門のマネジャーとして勤務。2000?2002年JDSユニフェーズ社のネットワーク機器部門およびシニアマネジャーとして勤務。2002年よりアリゾナ大学の教授に就任,光科学部の偏光研究室を主宰。現在に至る。OSA(米国光学会)フェロー, SPIE(国際光工学会)フェロー。●専門:分光偏光測定機やイメージ偏光計の開発を手掛け,ファイバー用光学部品,ウエーブガイド,液晶,偏光機能部品,および自然界の偏光に関する研究に従事。光学の分野で12の特許を持つ
●主な受賞歴など:2005年,米航空宇宙局(NASA)Tech Brief Award受賞。2007年, 偏光の研究によりSPIE GGストークス賞を受賞。Applied Optics の編集委員(Topical Editor),OSA偏光工学グループのチェアでもある。