【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

つぶれそうでも取り乱さずに冷静になること株式会社光コム 代表取締役 会長 興梠 元伸

当時は気づかなかった光周波数コムの重要性

聞き手:まずは,光学分野,そして光周波数コムなどの研究に進まれたきっかけを教えてください。

興梠:私は滋賀生まれですが,育ったのは静岡の浜松でした。祖父が丸ノコの製造工場を経営していました。その工場でハンマーやグラインダー,ボール盤などをおもちゃ代わりにして,ナイフを造ったりモデルガンを改造しようとしたり,いろいろ遊んでいるうちにものづくりが好きになりました。モデルガンの改造は失敗しました。
 光学に関してですが,家の近所にNHK浜松支局があり,そこには浜松がテレビ発祥の地であることを記念した「イ」の字を表した碑が建っていました。親からもよく聞かされ子供心にもすごいと感じていました。
 その後大学に進学するときに,機械だけでは面白くないと思い光電機械工学科を選びました。その名の通り光と電気と機械を全部学べる学科で,とても魅力的に感じたのです。今はシステム工学科に名前が変わっていますが,要するに何でもありの学科でした。
 卒業研究は半導体レーザーに触れてみて,この分野に進んでみたいと思ったんです。それから東京にも行きたいという思いもあって(笑)。それで東工大の大津先生の研究室にお世話になりました。入ってからはずっと半導体レーザーに関わりました。最初はレーザーの線幅狭窄化というのをやりまして,それから周波数制御や位相同期とかの研究をしていました。その後博士課程に進むわけですが,何をやるか悩みました。光の周波数を測ることは決まっていましたが,当時はやっていた位相同期やレーザー制御を組み合わせて周波数を測る手法と同じでは面白くないと思ったのです。フーリエ変換ぐらいの概念は知っていたので,コムで周波数を測る事を思いつきました。ですが,実行するかどうかまよっていました。エレベーターの中で大津先生に「こんなのできますかね?」と言ったら「やれ」って言われまして,僕の提案がそのまま通ったんです(笑)。 remark52_2  研究を始めた当初は,モードロックレーザーが安定ではなかったので,光共振型の変調器を使うことにしました。光共振型の変調器は,阪大の小林哲朗先生の研究室が発祥ですが,最初論文を見ながら自分でつくろうとしましたがうまくいかず,阪大に行って技術を積みながら学んで,そこから自分で発展させていったのが光コム開発の始まりです。当時はコムという言葉はありませんでした。最初の論文を書く段になって初めて名前をつけようということで色々な案が出ましたが,マイクロ波にはコムという概念があるのを見つけて,オプティカルフリクエンシーコムと名付けました。
 博士論文にまとめるとき,全体の骨子とし,オクターブコムの概念,コムが1オクターブあれば光の周波数は決定できるということに行き着いたんです。これは現在のキャリアエンベロープオフセット周波数を制御する事と同じ概念で,このときはこれが実現するのに20年かかると思っていました(笑)。当時,特許を取ろうかとも思ったのですが,結局出願せず,オクターブの概念も論文に書いた記憶もありません。それがこうして実現していることに驚いています。だから本来なら,これが僕の博士論文の最大の成果だったんだと思います。自身では何が成果かを気がついていなかった。当時,伊賀先生に「この論文の中で一番大事な図は何ですか?」と聞かれた時に,この図ではなく別の図を指しました。新しい概念でしたので,周りだけでなく自分もわかっていなかった(笑)。
 起業の話ですが,もともと物作りが好きでしたから,昔から考えていました。研究者として大学の研究室に身を置いて講師とか教授になるのは,何か柄じゃないと思ったので。それよりはものづくりをと考えたんですが,もっと儲かるといいんですけどね(笑)。売れるものを造るには,研究とは別のセンスが必要だと感じています。実用化するためには価格とかコストとかいい落とし所を見つけださなければいけない。
remark52_3 製品の話ですが,先月号の特集で紹介されてたものに,デュアルコムの干渉システムがありますが,それに近いのが現在うちの主力製品である距離計なんです。この距離計の原理は2000年ごろ考えつきました。書いた論文としては,OCTの話としてまとめました。この原理を用いて距離を測定するととんでもない値が出てくるので,距離計に特化していったのです。光コムを用いた距離計は光が遮断されても任意の距離を高速・高精度で測れます。高速なので距離計測だけでなく形状計測もできます。以前,依頼計測で高速に変動する流体表面の計測をした事がありますが,こんな距離計は他にないと思います。これが今は1μmの精度ですが,将来的にはナノメータークラスの絶対距離を測れるようになると思います。
 今後製品をしっかりとより完成させていきたいですね。以前はそもそも専門に勉強していない回路設計やレイアウト,ソフトウエアやインターフェースなどを外注に出していましたが,外注ではなく,そうしたノウハウを蓄積して色々な技術をちゃんと自分達のものにしておくことを意識しています。 <次ページへ続く>
興梠元伸(こうろぎ・もとのぶ)

興梠元伸(こうろぎ・もとのぶ)

1966年滋賀県生まれ。1987年静岡大学工学部光電機械工学科卒。1987年東京工業大学大学院総合理工学研究科物理情報博士課程入学。2007年株式会社光コム代表取締役社長に就任。2010年株式会社光コム 代表取締役会長に就任。
●研究分野 光通信,光デバイス
●業績・受賞等 2008年井上春成賞

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