機械としてはとてもシンプルなカメラに心を惹かれる

聞き手：光学分野に進まれたきっかけというものと，また，光学に魅了された理由などをお聞かせください。

槌田：私はもともとカメラ，写真が好きでした。私が小学生のころ，家に「OLYMPUS PEN」というカメラがあり，それで写真を撮ってみると，結構きれいに撮れたのです。当時のカメラはフルマニュアルですから，単にシャッターを押すだけではなくて，ピントも露出も全部自分で合わせないといけないのですが，何となく感覚的にこのぐらいにするといいなというのが子どもながらにわかっていました。家族の中でも私が撮った写真がきれいに撮れるので，カメラっていいなと思いました。
　カメラは機械としてはとてもシンプルです。実際に中を開けて見ても複雑そうなものは何も入っていません。こんなにシンプルなのになんできれいな写真が撮れるのかな，不思議だなとすごくカメラや写真に興味を持ちました。それが原点でしょうか。
　それと子どものころから理科が大好きでした。高校になり物理や化学，生物を専攻する中で，物理が一番シンプルに感じ好きになりました。法則がシンプルで，それだけ理解しておけば，ほとんどの現象は説明できるということに「なんて単純なんだ」と感心しました。
　大学に進学したときも物理が好きでしたので応用物理学科に入りました。その専攻には光関係や物性関係，数値解析などがありましたが，もともと興味があった光の専門的な勉強をしてみたいと思い光関係を選びました。

カメラが好きでオリンパスに入社

槌田：就職するときも，もともとカメラが好きだったこともあり，またオリンパスのカメラに独創的なものが多かったので，優秀な技術者がそろっている会社だろうと思い，オリンパスに就職をしました。自分が子どものとき初めて触れたカメラがオリンパス製だったことも大きかったと思います。オリンパスでは，カメラの中でも光に関わる部分ということでレンズ設計をやりたいと思っていました。採用試験のときに，何をやりたいかと聞かれて，レンズ設計をやりたい，でも簡単なものはやりたくない，難しいのをやらせてほしいと話したところ，レンズ設計をしてカメラを開発していくという，もう本当にピッタリ希望通りの部署に配属されました。
　そこではまず，コンパクトカメラのレンズ設計を担当しました。入社2年目に私が設計したコンパクトカメラ用のレンズが，製品に採用されました。量産されてすごい数の製品が世の中に出て行くのを見て，ものすごくうれしかったです。
　今から30年以上前になりますが，世の中に家庭用ビデオカメラが登場しました。するとこれからはビデオの時代だということになり，光学メーカー各社がビデオの開発に乗り出していました。オリンパスでもビデオシステム事業部という部署ができていました。また，静止画用も今のデジタルカメラではなく電子スチルカメラと言っていましたが，同じくその部署で開発していました。まだ私は若かったのですが，新しいことがやりたくて，自ら手を挙げてそこに異動しました。
　その部署には光学屋は先輩と私の2人きりでした。先輩は難しいズームレンズの設計を担当して「あとは槌田君，頑張って」と。ズームレンズ以外の光学技術，ファインダーやオートフォーカス，測光，スクリーンマットなどから，いろいろな光学レンズまでほとんどの部分をやらせてもらいました。
　それらの開発途上で，いろいろと新しいことをしなければなりませんでした。その中で，私はまだ入社2年目ぐらいでしたが，自分のアイデアを出す機会も多く，そのアイデアがうまくいくものだから，また調子に乗ってアイデアを次から次へと出していくという感じで，もう本当に楽しかったですね。
　この若かりしころのビデオカメラ，電子スチルカメラの開発が私の光学技術者，光学設計者としての原点だと思います。

＜次ページへ続く＞