【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

日本では優秀な技術者は育つけれどもアーキテクトが育ちにくい名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻) 佐藤 健一

組み合わせて新しい機能や価値を生み出していくことに興味を覚えた

聞き手:通信の研究に入ったきっかけ,研究された内容についてお教えください。

佐藤:多分多くの方と同じと思いますが,また男子に限った話ではないと思いますが,子供のころには模型を作ったり,いろんな機械を分解したりとかが好きでした。
 あとは物理現象,「なぜそうなるのだろう?」ということに常に興味が有りました。レンズを使うと,実際に物が無い位置に虚像が見えたり,上下さかさまに見えたり,鏡に映るとなぜ左右反対に映るのかといった誰でも抱く素朴な疑問,好奇心が単に強かったといいますか。別に取り立てて執着するわけではないですが,そういうものが好きでした。ですから,物理では基となる原理,例えばレーザーであれば「なぜ光がほとんど広がらずに進むのか?」とか「どういうメカニズムで光が出て来るの?」とか,そういうことを知ることが好きでした。その中で色々な原理が組み合わさって新しい機能,新しい価値が生み出されていくところに特に興味を覚えました。
 大学に進み卒論ではZnSeの音響光学効果,光弾性効果の研究をやりました。2学年上には現東京大学教授の菊池和郎先生がいて,指導して頂きました。
 その後青木昌治先生のもとで青色発光ダイオードを研究しました。当時は材料の候補としてIII-V族のGaNや,II-VI族のZnS,ZnSeなどの材料が研究されていましたが私はZnSを研究することになりました。Teの液層から成長させることで,S原子をTeが置き換えて等電子トラップとなり,液体窒素だと非常にクリアで奇麗な明るいブルーで光り,とても魅力的な色をしていました。しかし室温ではスペクトル幅が広がり白っぽくなり(写真1)しかも効率が悪く実用化にはほど遠いものでした。当時II-VI族は他大学でもいろいろやっていた人がいましたが,結局物にはなりませんでした。私が青色発光ダイオードに関わったのは短期間でしたが, つい最近GaNの青色発光ダイオードで赤﨑先生や天野先生,中村先生がノーベル賞を受賞されましたが,あの青色LEDが完成するその裾野には累々たる屍といいますか,いろんな人の奮闘が隠れているはずです。

写真1 青色発光ダイオードを目指して


 就職では,当時の日本電信電話公社(現:NTT)と日本電気(NEC)のどちらに就職するか迷いました。それぞれ研究所が横須賀と玉川(武蔵小杉)にありました。
 結局,日本電信電話公社横須賀電気通信研究所にしたのですが,配属希望は半導体と伝送システムのどちらにするかは相当悩みました。自分の性格として,一つのことにこだわりが強く,やりだすと全体を忘れて没頭してしまう自分を認識していましたから,敢えて全体を広く見る必要のあるシステムを希望しました。最初は光ファイバー伝送系における雑音特性の解析や,光ファイバーアナログ画像伝送システムなどの研究を行いました。半導体レーザーの高周波重畳変調方式を考案し,世界で初めて半導体レーザーを用いた多モード光ファイバーによる当時としては長距離であった数十kmの伝送に成功しました。
 その後,伝送方式研究室に移りました。当時はブロードバンドISDNの議論が始まったころでした。そこではATM網に関する研究を行い1987年にバーチャルパス(VP:Virtual Path)の概念を世界で始めて提案し,その後この提案は世界標準となりました。この考えは現在のパケット通信でも,M P L S(Multiprotocol Label Switching)におけるラベルスイッチドパスとして広く使われています。
 ATMの開発が進み一段落した1990年代の初頭ぐらいに,次にネットワークを大きく革新するのは,やはり光技術だと考えました。もともと光をやっていましたから,また光の所に戻ってきたわけです。
 このときに興味を持ったのは,光を利用したネットワーキングです。当時はWDM伝送,波長多重が少しずつ出てきたころでした。私は光のままルーティングをしネットワークを構築することは,次の大きなブレークスルーになるということを確信していまして,それをやり始めたわけです。
 具体的には,光の波長を識別子としてノードで光電気変換することなく光のままルーティングしていく,今の光クロスコネクト,光アドドロップマルチプレクサーというシステムです。その研究開発は1992年ぐらいから,2004年に名古屋大学に移り現在に至るまでずっと続けています。
 NTTの研究所で研究開発をしていて良かったと思うことが幾つかあります。例えば,NTTは当時研究所でベンダーさんと一緒になって実際にシステムを開発していたことです。最近ではNTTでハードウエアの開発はほとんどやらなくなっていますが,当時は開発が始まると,毎週のようにいろいろな企業の方と技術的な議論をしました。ATMというのは電気技術ですが,そこで強く認識したことが,電気処理の威力とディジタル処理のポテンシャルでした。この点はずっと光を中心にやって来られた方と,時として見方が違う大きな理由だと考えています。その後光はどういう機能を利用すべきかを考えるときに,その経験はとても役に立っています。

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佐藤 健一(さとう・けんいち)

佐藤 健一(さとう・けんいち)

1953年 東京生まれ 1976年 東京大学工学部電子工学科卒 1978年 東京大学大学院工学研究科電子工学専門課程修士課程終了 1978年 日本電信電話公社横須賀電気通信研究所入所 1985年 British Telecom Research Laboratories交換研究員 1999年 NTT未来ねっと研究所フォトニックトランスポートネットワーク研究部部長 2004年 NTT R&Dフェロー 2004年 名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻)
●研究分野 光通信ネットワーク,光ネットワークシステム
●主な活動・受賞歴等
1984年 電子情報通信学会学術奨励賞 1990年 電子情報通信学会論文賞 1999年 IEEE Fellow Award 2000年 平成11年度電子情報通信学会業績賞 2002年 平成14年度文部科学大臣賞(研究功績者) 2003年 電子情報通信学会フェロー 2005年 電子情報通信学会通信ソサイエティ功労顕彰 2007年 電子情報通信学会通信ソサイエティ論文賞 2008年 電子情報通信学会通信ソサイエティ論文賞 2009年 ONDM 2009(The 13th International Conference on Optical Networking Design and Modeling - ONDM 2009)Best Paper Award. 2012年 電子情報通
信学会功績賞 2013年 CLEO-PR & OECC/PS 2013(The 10 th Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim, and The 18 th OptoElectronics and Communications Conference/Photonics in Switching 2013), Best Paper Award 2014年 紫綬褒章
IEEEフェロー
電子情報通信学会フェロー
NTTR&Dフェロー

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