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「もしかしたらできるんじゃないかな」と思ってやってみる(後編)東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 村山 斉

99%が試行錯誤だから,新しいことがわかるととてもうれしい

聞き手:研究のプロセスであったり,この機構を治めている中で,成果が出なかったり,壁に当たったりするような苦い経験があったら教えていただきたいのと,それをどうやってクリアしたのかというのをお聞かせいただけますでしょうか。

村山:私は大学院の最初から壁に当たっていたので,いい意味でも,悪い意味でも,研究というのは壁が付きものだというのは頭に染み込みました。何をやってもほとんどうまくいかないのだ,たまにうまくいくことがあると思ってやるんだ,というのはよく分かりました。実際,その後もずっとそうです。壁にぶつかることが,しょっちゅうあるのです。
 私は理論の研究です。例えば暗黒物質は正体が分からないわけだから,自分なりにこれは何だろうと説を立てるわけです。一度説を立ててみると,その説をきちんと定量的に定義するのが大事で,こうじゃないか,ああじゃないかと,それを使って今度予言ができるから,その予言と今までの観測とを比べて,うまくいっているかどうか判断するわけです。
 最初,漠然と思ったアイデアを,ちゃんと定量的な理論にするというところが,けっこう大変なところです。でも,もっと大事なのは,いったん定量的な理論になったら,それがうまくいっているかどうかをきちんと判断していくのですが,大抵うまくいかないものです。99%うまくいかないわけです。あれかな,これかなとやっていくうちに,たまたまうまくいくのがあって,それをもうちょっと頑張ってやってみます。それも2カ月ぐらいやっていくと,やっぱり駄目だというのが分かる,その繰り返しなのです。そうしているうちに,ごくわずかなものが,今の知識を総動員してもこれは大丈夫だ,否定されてない,だから,これは将来こういうふうにやったら検証できて,もしかしたら発見につながるかもしれないという理論になる。そうすると,数年から10年間その理論が生きていて,いろいろな観測実験から,もしかしたらこれが証明されたらうれしいなといくわけです。それまではバタバタと討ち死にしています。初めからそういうものだと思ってやっていないとくじけてしまいます。
 このように,研究は99%が試行錯誤,暗中模索なので,ほとんどうまく行きません。でもごくたまにうまく行く時があって,新しいことがわかります。「そうか!」とすっきりした気持ちと,世界中で自分以外に誰も知らない新しいことを見つけたという感覚は,とてもうれしいものです。
 それでも,「どうしてもこの先行けない」という気持ちになるときがあります。ありがたいことに,そういうとき,分野を気にしない,自由な考え方の人たちの話を聞いたりすると,何かにぶつかったときに,正面突破でグイグイやろうと思っても,どうにもならないときはあるので,そういうときは力を抜いて横に行きましょう,と学ばせてもらいました。横に行くと,スッと回れちゃうこともあるし,全然違う方向に発展していくこともあるし,何かやれることが見つかるのです。一見,全然違う方向に行っているようだけれども,しばらくして前にぶち当たった壁を見てみると,「ああ,あそこに穴があるじゃない」と気が付くことが本当にあるのです。もしくは,壁で通れないと思ったのだけども,実は端っこがあって,そこから横に回り込めるのだというのが見えるとか,遠くから見ると全体像がよく分かって,それに対する戦略も立てやすいことがあるのだというのも学びました。だから,いつもちゃんと頭の隅に置いておくのです。そういう経験は何度もしました。
 大学院でやりたかった勉強ができずに苦労していたときに,超電導体をつくったりして遊んでいましたが,最近やった研究では,実は,それが役に立っているのです。宇宙に満ちているヒッグス粒子が3年前に見つかりましたけど,あれは超電導と理論的にそっくりなのです。そういうことが分かった上で,あらためて理論を見てみると,ヒッグス粒子の正体はこうじゃないか,ああじゃないか,みたいなアイデアがまた出てくるのです。

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村山 斉

村山 斉(むらやま ひとし)

1964年 東京都八王子市生まれ 1986年 東京大学理学部物理学科卒業 1991年 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了 1991年 東北大学助手 1993年 ローレンス・バークレー国立研究所研究員 1995年 カリフォルニア大学バークレー校助教 1998年 カリフォルニア大学バークレー校准教授 2000年 カリフォルニア大学バークレー校教授 2004年 カリフォルニア大学バークレー校MacAdams 冠教授:現職 2007年 東京大学数物連携宇宙研究機構初代機構長(現カブリ数物連携宇宙研究機構):現職
●研究分野
素粒子物理学
●主な活動・受賞歴等
2002年 西宮湯川記念賞受賞
2003年 米国物理学会フェロー
2013年~米国芸術科学アカデミー会員

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