【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

地道に続けていれば,道が開けてくる大阪大学/日本光学会 谷田 純

国語と社会が嫌いで理系に進む

聞き手:光学分野に進まれたきっかけと,これまでの研究テーマについてお聞かせください。

谷田:子どものころから理科は好きでした。育ったのは大阪のど真ん中でしたので,自然が豊かだったわけではありません。ただ,小学校1年のころに1年ほど大阪府の郊外のほうに引っ越しました。そこは,家の裏が田んぼで,オタマジャクシやカエル,水生昆虫などが多くいました。自然豊かな所で,生き物に接して理科は面白いなと子ども心に感じました。
 中学,高校に進んでも変わらず理系志望でした。当然かなと自分では思っていました。といいますか,国語と社会には興味がもてず苦手でしたので(笑)。それで理系に進み,大学をどこにしようか迷っているときに,大阪大学工学部の学科紹介を見る機会がありました。当時は多くの学科に分かれており,20以上の学科の中から5つまで志望できました。
 受験科目では有機化学に興味があり,化学系の学科を考えていたのですが,応用物理学科の学科紹介というのが,ちょっと得体が知れませんでした。計算機をやり,物性もやり,そして光もやるということで,なにかわからないけどちょっと面白そうだなと感じ,実力的には難しかったのですが,第1志望に書いてしまいました。そうしたらどういうわけか,第1志望で合格し,応用物理学科に入学することになりました。
 応用物理学科では,学部4年になると研究室配属があります。そのときに研究室を選ぶのですが,学部では光分野の講義が面白く,その方向に進みたいと考えていました。そこで,画像や光の研究をしていた鈴木達郎先生の研究室を志望しました。既にお亡くなりになられていますが,鈴木先生はレンズの領域型自動設計で著名な方です。鈴木研の人気は高かったのですが,ここでも運良く研究室に入ることができました。そうして光の研究を始めることになりました。

修士のテーマから光コンピューティングに関わる

谷田:学部時代は,横関俊介先生の指導で,2次元格子を用いたタルボット干渉計に関する研究をテーマとして与えていただきました。
 タルボット干渉計は,格子にコヒーレント光を入射させると同じ格子が離れた空間に周期的に再現されるというタルボット効果を利用したシアリング干渉計です。途中の空間に位相物体があると再生される格子が変形するため,元の格子を重ねて観測するとモアレ縞として位相情報が計測できます。従来は1次元の格子が用いられていましたが,それをクロス型の2次元格子にしたらどうなるか。シアリング干渉計は1次元方向の変化しか計測できないのですが,それを2次元にすることで面内のX,Y両方向の変化が得られるだろうということで,テーマをいただき,その研究をはじめました。
 そうして実験を進めていくうちに,横関先生から,格子縞を動かす縞走査(フリンジスキャン)という技術を組み合わせることを提案いただきました。当時,受光計測装置やイメージセンサーは非常に高価でしたので,受光装置は自分で回路から組み立てました。そして計測してみると,2次元格子の移動に従って2つの周波数が乗った信号が得られました。この信号を分離することで,X,Y方向それぞれの位相変化が同時に測定できました。学部4年生ですので研究については何もわかっていませんでしたが,その面白さを実感でき,とてもよい経験を得ることができました。
 鈴木研究室には,一岡芳樹先生がおられたのですが,研究室の方針として修士のテーマは自分で考えろということになっていました。それで光コンピューティングをテーマに研究を始めました。
 最初にやったのは,投影光学系を用いた並列光論理演算法です。簡単に言うと影絵の光学系を使って2次元の論理演算を実行する手法です。もとになるアイデアを自分で考え出して一岡先生に相談したところ,「面白いからやってみたら」ということになりました。その後は,光コンピューティング関係の研究を大学院からずっと続けました。具体的には,光アレイロジックとか,OPALSと呼ばれる並列光演算システムといった研究を行いました。
 その他,広く光を使った情報技術ということで,フィードバック系を用いた光フラクタル合成器があります。これは,O plus Eの「1枚の写真」で取り上げていただいたことがあります(1998年4月号 Vol.20 No.4 通巻221号)。
 あとは,モアレ現象を使った情報解析技術,特にDNAを対象にした解析技術や,垂直共振器型の面発光型レーザーを使った光マニピュレーションの研究,最近では,複眼を利用したカメラ「複眼撮像システムTOMBO」(写真1)の研究を行っています。
 また,光には回折限界がありますが,それを超えて,より小さいスケールの対象を扱うためには工夫が必要になります。そこで微小な分子であるDNAを使うことで,光の回折限界を超えようと構想しました。当初,DNAコンピューティングの提案はすでに出されていましたが,光技術を組み合わせたフォトニックDNAコンピューティングとして,情報分野のフロンティアをめざした研究を進めました。
 現在,TOMBOからはコンピュテーショナルイメージングが研究室の重要テーマの1つになっています。また,フォトニックDNAコンピューティングは,もう少し普遍的なナノスケール情報処理技術に発展させたテーマとして進めています。
 このように光を使った情報技術を研究課題として,ずっと今までやってきたという感じですね。


写真1 初期のTOMBOモジュールと最新の一形態であるTOMBOアタッチメント


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谷田 純

谷田 純(たにだ・じゅん)

1986年 大阪大学 工学博士 1986年 日本学術振興会 特別研究員 1986年 大阪大学 工学部 助手 1993年 大阪大学 工学部 講師 1996年 大阪大学 工学部 助教授 1998年 大阪大学 工学部研究科助教授 2002年 大阪大学大学院 情報科学研究科 教授 2014年 一般社団法人 日本光学会 副会長 2017年 一般社団法人 日本光学会 会長
●研究分野
光コンピューティング,情報フォトニクス,コンピュテーショナルイメージング,フォトニックDNAナノ情報技術
● 主な活動・受賞歴等
1985年 応用物理学会光学論文賞
2012年 第10回光都ビジネスコンペ in 姫路 優秀賞
2015年 OSA Fellow Member
2015年 応用物理学会フェロー表彰

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