【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

人を引き付けるようなテーマを見つけて光学を盛り上げてほしい東京工芸大学 中楯 末三

光通信の初期のころに大学で光を学びはじめた

聞き手:光学に進んだきっかけをお聞かせください。

中楯:私は,山梨大学工学部の電子工学科の出身です。学生の時は,電子の技術者になろうと思っていました。山梨大学の工学部では電気と電子の両学科の,どちらの研究室を選んでもいいことになっていました。それで,4年生の研究室配属のとき,電波の研究室と半導体素子の研究室のどちらにしようかと悩み,結局,電気の電波の研究室に入りました。
 ちょうど光通信の初めくらいの時期で,電気・電子を学んでいる時にも,次は光の時代だと盛んに言われていました。それで,光を研究してみたいなと思い,大学院はレーザーの発振といった光分野を希望しまして,東京工業大学の辻内先生の研究室に入れていただき,そこから光の研究をはじめました。
 大学院2年生のときにドクターに行こうかどうしようかと悩んでいたのですが,うちの両親に「まだ行くのかい」というようなことを言われてしまいました。すねをかじるのもこのくらいかなと思い辻内先生に相談したところ,理化学研究所(理研)を紹介していただきました。
 当時,斎藤弘義先生が主任研究員になられて光学計測研究室となった研究室に入り,干渉縞の画像処理を研究することになりました。
 自分から光を希望したところもあるのですが,光の線形性とか非線形とか全くわかっていませんでした。実は私はもともとレンズといったものには,あまり興味がなかったのです。今ではレンズの講義をしていますが,当時は電磁気学や波動などの分野に興味を持っていました。
 大学での卒業研究は,プラズマに磁場をかけると異方性プラズマになるのですが,このプラズマに2周波のマイクロ波を入れるとプラズマの共振・非線形現象で,入力周波数の差の周波数成分が出るという内容でしたが,特に線形性に興味があって光の研究に進んだわけではないのです。

聞き手:そもそも,電子工学を志されたきっかけですが,子どものころから好きだったのでしょうか。

中楯:私の父と兄が小さい会社を経営していました。工場で圧力計などを作っていたのです。それで,電気的な物への興味がわき,子どものころから技術者になりたいと思っていました。それで,電気・電子系に進みたいと思っていたのです。

聞き手:これまでの研究内容についてお聞かせください。

中楯:私が辻内研究室の修論で行ったのは,ホログラフィーを用いて3次元変形を測るというものでした。3本の照明光でホログラムを作り,照明方法を変えて干渉縞を何枚か取り込み,それを計算機で処理をするのですが,斎藤先生の光学計測研究室でも,そのような干渉縞の処理をしたかったのです。
 私が理研に入ったときに,谷田貝先生(現:宇都宮大学教授)が,主にモアレの処理や干渉縞の処理をされていまして,私はそれを遠くで見ていました。ほかには,スペックル干渉の研究も行われていて,私も面白いと思って見ていましたら,スペックル干渉のデジタル版を私が研究することになりました。ドクターでは,ホログラフィーやスペックルを使った変形計測について研究していました。辻内先生からペーパードクターをもらうために研究していましたが,ブランニングの位相シフト法をスペックルにも応用するという論文です。
 それから,できるだけ高速計測を可能にするために,3つのCCDや1CCDの上に画像を何枚か作り高速に処理するのを研究していました。
 私はずっと干渉計測が中心です。理研から東京工芸大学へ移ってからも,干渉縞を高速処理する研究をずっとしていて,あまり他の研究はしてきていません。

聞き手:ありがとうございます。東京工芸大学に移られたきっかけは何だったのでしょうか。

中楯:私は理研に15年間ぐらい在籍していました。そろそろどこかへ移りたいなと思っていて,辻内先生に相談したのです。実は私の前に,ニコンから一色真幸先生が東京工芸大学に移られていました。ニコンから移られて1年目ぐらいだったと思うのですが,私が辻内先生に相談したころに,一色先生も辻内先生と話をされていたようで,辻内先生から「東京工芸大学に行ってみる?」と言われたのです。そのころは自由応募で,あまり誰かと競い合うような形ではありませんでした。今はいろいろな方の応募があり,選考されるようです。
 写真ということで少し分野が違うかなと私は思ったりもしましたが,せっかくのタイミングだったので移ることにしたのです。ただ,なかなか教育は難しいです。もしかしたら,大学よりも理研でずっと研究をしていたほうが性に合っていたかもしれないと思うこともあります。
 大学は研究するところだというイメージをもっていましたが,研究以外の仕事がほかにもたくさんありました。例えば,授業を90分やるにしても,授業の準備に結構時間がかかるし,話すことも,昔は少し得意かなと思っていたのですが,今考えてみると,あまり学生に響いていなかったなと思います。学生があまり聞いてくれないので,それを聞かせるようにするために資料を作ったりすると,それにも時間を取られていました。講義のうまい先生もたくさんいらっしゃいますが,私はあまり学生に向かってものを教えるのはうまくなかったなという感想をもっています。誰でもそうだと思うのですが,自分の好きなことをやるときには,時間があろうがなかろうがやりますが,そうではないことをやらせるということはとても難しいことです。

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中楯 末三

中楯 末三(なかだて・すえぞう)

1952年 長野県生まれ 1976年 山梨大学 工学部 電子工学 1978年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 物理情報工学 1978年 理化学研究所 光学計測研究室入所 1986年 工学博士(東京工業大学:変形・振動の画像計測法の研究) 1989年 東京工芸大学 工学部 写真工学科 助教授 1995年 ロチェスター大学(USA)光学研究所(ダンカン・ムーア研究室)1年間滞在 1998年 東京工芸大学 工学部 教授
●研究分野
応用物理学・工学基礎,応用光学・量子光工学,光計測,画像・光情報処理
●主な活動・受賞歴等
1988年 光学論文賞(応用物理学会) 1991年 日本光学会(応用物理学会)幹事 2001年 日本光学会(応用物理学会)副幹事長(OPJ2001担当) 2010~11年 日本光学会(応用物理学会)常任幹事(OR出版委員長) 2014~15年 日本光学会(応用物理学会)常任幹事(OR編集委員長) 2016年(一般)日本光学会 OR編集委員長

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