セミナーレポート
ニュートンの夢がついに実現 ~多波長干渉画像処理が拓く新たなナノ計測の世界東レエンジニアリング(株) 北川 克一
本記事は、国際画像機器展2012にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
12年の研究開発で,干渉計測の問題点を次々に解決
17世紀後半,ニュートンは後にニュートンリングと呼ばれる干渉縞を観察して,シャボン玉の虹色と同じ色の並びを持つことに気付き,空気の膜厚と干渉色の関係を考察しました。それから300年余り,カラーカメラと多波長照明,コンピューターを使って,1枚の干渉画像から表面形状や膜厚分布を高精度,かつ高速に求める技術を開発,実用化しました。その中で,2012年8月に,ニュートンが成し遂げられなかったシャボン玉膜厚の計測に成功しました(図1,図2)。 光干渉計測との出合いは今から26年前の1986年,東レの主力ビジネスであるフィルム事業で,米国製のフィルム表面粗さ測定用の光干渉式表面形状測定装置を導入したことです。その後,社内ベンチャーを立ち上げ,各種の表面形状測定システムを開発しました。そこで使われる光三次元形状測定法にはいくつかのやり方があり,非常に精度が高いのが白色干渉法(VSI)と位相シフト法(PSI)という光干渉法です。しかし,低速度(VSI),レンジの狭さ(PSI),透明膜による誤差,振動に脆弱,移動物体の測定不能という問題があり,それらの解決のために,1999年から自社研究を始めました。 その中で,2000年には東京工業大学との共同研究による世界最高速の白色干渉法を開発,2002年には透明膜測定,2006年には透明薄膜測定,2011年には東工大との共同研究による多波長ワンショット,2012年には干渉色解析と膜厚分布測定を,それぞれ世界で初めて実現しました。まず,白色干渉法(VSI)ですが,従来のやり方は測定速度が遅いという問題がありました。そこで,2000年,広い標本点間隔の少量データからピーク位置を推定するSB法を開発しました。それで従来の約10倍の速さの表面形状測定装置「SP-500」を開発,現在では7倍速のカメラで垂直走査速度214μm/秒,走査時間0.5秒,計算時間1.7秒(140万画素)の合計2.2秒で測定することができるようになっています。
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東レエンジニアリング(株) 北川 克一
1964年東京大学計数工学科卒、同年東レ(株)に入社。1989年より画像処理・レーザ光学を応用した半導体およびFPD用検査機器の研究開発に従事。2000年より東レエンジニアリング(株)勤務、現在に至る。計測自動制御学会より技術賞(2001年度)受賞。ViEW2003にて小田原賞受賞。手島記念財団発明賞受賞(2004)。精密工学会より技術賞(2011年度)受賞。2011年博士(情報理工学;東京大学)。計測自動制御学会認定計測制御エンジニア。