セミナーレポート
インフラ構造物点検におけるイメージング技術の活用キヤノン(株) イメージソリューション事業本部 IIS事業推進センター 主幹 穴吹 まほろ
本記事は、国際画像機器展2021にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
>> OplusE 2022年3・4月号(第484号)記事掲載 <<
インフラ構造物点検とは
インフラ構造物には,橋梁やトンネル,ダムなどのコンクリートでできた社会インフラ,交通インフラ,電力インフラがあります。コンクリートは約50年経つと劣化が顕著になってきます。日本では,橋梁やトンネルなどは,高度経済成長期に集中して整備されました。現在,その老朽化が進んでおり,定期的なメンテナンスや架け替えなどが必要になってきています。国内の橋梁は約70万橋あり,メンテナンスを怠ると,大規模な事故にもつながります。ここ数年間を見ても,年に1回程度の頻度ですが,世界のどこかで橋梁の崩落事故も起こっています。事故を防ぐには,定期的にメンテナンスし,早めに補修することが重要です。日本では,5年に1度の頻度での,橋梁とトンネルの全数点検が義務づけられています。インフラ点検では,基本的には人がコンクリートのそばまで寄り,近接目視で,どこにどれくらいひび割れやその他の変状があるかを記録して,その記録に基づき判断する劣化が進んでいるところから優先的に補修が行われています。全数点検・予防保全が有用とされていますが,非効率な点検方法をはじめ,作業員の高齢化・人材不足が課題になっています。特に,現在は70万橋の点検が可能でも,10年後20年後には可能なのか,それだけの人材や予算を確保できるのかに,不安があります。点検では,人が近づいて確認し,記録することが法律で決まっており,それ以外では行ってはいけないことになっています。しかし,例えば橋梁と言っても,非常に背の高いものも数多く,点検は危険な作業でもあり,事故も発生しています。
こうしたことから,近接目視ではなく,ドローンによる点検やカメラ撮影,AIなどのIT技術を利用し,より安全に,より効率的に,より効果のある形での点検方法が検討されています。2019年2月,国交省では,道路橋定期点検要綱,道路トンネル定期点検要綱を改定し,近接目視だけでなく,人が見たときと同等の点検ができるのなら,ドローンやカメラ,ロボットなどの使用も可能になりました。この改定を受けて,当社をはじめ多くの企業が,この点検ビジネスへ参入し始めています。
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キヤノン(株) イメージソリューション事業本部 IIS事業推進センター 主幹 穴吹 まほろ
1998年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程修了。同年キヤノン(株)入社。2004年から2006年までMIT Media Lab客員研究員。イメージング技術による新規ソリューションの事業化推進を担当。