新聞報道(朝日新聞2022年6月10日など)によれば,小惑星「リュウグウ」から探査機「はやぶさ2」が持ち帰った砂の分析結果が明らかになり,リュウグウは太陽系が誕生した46億年前のたんぱく質の特徴を保ち,生命の源につながるアミノ酸が豊富にあったとする結果が確認されたという。この件に関してはいささか微妙な問題が伴っていることは承知しているけれども,実は本誌の読者でSPIEの会員である皆さんは,かつてSPIEの会長(2001年)であったリチャード・フーバー(NASA)氏のことを憶えておられるであろう。彼は1943年に米国ミズリー州で生まれ,デューク大学でX線回折の研究を行った後,1966年にNASAに加わった。ここで彼の名を有名にしたのは30以上の書籍および300に及ぶX線光学関連著作,なかでも地球外生命体(Astrobiology)に関する研究であった。その成果を当時日本の新聞でもいくつか報道され,「隕石内に地球外微生物の化石を発見した」ことをめぐってはいくつかの意見が載せられた。これに対してNASAは2011年3月8日,「これを裏づける科学的根拠はない」とする正式な見解を示した。フーバー氏は「Journal of Cosmology」に論文(査読なし)を発表。数種類の「炭素質コンドライト」と呼ばれる水や有機物などが比較的多く含まれている隕石の断片を高性能の顕微鏡で観察したところ,バクテリア様の生命体を発見したとしていた。フーバー氏は,「この化石は地球外からやってきたもので,隕石が地球に落下した後に混入したものではない」と主張する。だが,NASA宇宙生物学研究所のカール・ピルチャー所長は,「フーバー氏は何年も前からそのような主張を繰り返してきた」とした上で,「この微生物の痕跡が地球で混入したものではないとするフーバー氏の途方もない説を支持している隕石研究者は1人もいない」と強調。さらに,フーバー氏が調べた隕石は100~200年前に地球に落下したもので,人の手に何度も触れられていることを挙げ,「隕石内で発見された微生物は地球上で混入した雑菌と考えるのが最も自然だ」と述べた。NASA科学ミッション部門のポール・ヘルツ氏も,「NASAはフーバー氏の論文を支持しない」とする声明を発表している(https://afpb.com/artiles/-2789317)。という次第で,これまでNASAは公式にはフーバー氏の発表を支持していない。さて今回「はやぶさ2」が持ち帰った砂は,これまで地球人の手には触れていないはずである。こうした状況にあって,NASAはどのような見解をとっているのであろうか。なおフーバー氏と筆者はSPIEの活動で何回か会う機会があってAstrobiologyが話題となったこともあったが,NASAが同氏と距離を置くようになってからは会う機会はなく,地球外生命体は話題にならなかった。またフーバー氏は2011年12月にNASAを引退している。SPIEの会員名簿によれば同氏は現在Professor of Athens State Universityとなっており,他の情報では英国バッキンガム大学アストロバイオロジー・センター客員教授でもあるという。当然ながら軽率に報道すべきテーマではないが,新聞報道に関連しての話題として記す。