山場を越えたら,あとは丁寧に(株)ニコン 取締役兼常務執行役員 大木 裕史
産業界に貢献できる光学教育の実践
聞き手:2006年11月に設立された東京大学の「ニコン光工学寄付研究部門」を発展的に継承され,2012年4月より「ニコンイメージングサイエンス寄付研究部門」として新たにスタートされています。この研究部門の概要について,ご説明ください。大木:実のところ,「イメージングサイエンス寄付研究部門」で行う講義内容は前身の「光工学寄付研究部門」から特に変えていません。なぜなら,このような基礎的な講義の内容は継続性が重要になるからです。
この寄付研究部門の特徴は,昨今の大学で光学産業に直結した光学の講義が減少傾向にある状況を危惧し,社会貢献活動の一環として大学生を対象にこのような光学の教育を行うことを目的としている点にあります。こうした構想は私の前任者が考えていた発想ですが,それを受けて私が東京大学生産技術研究所の先生方や社内の有識者から協力を得て“光学産業で必要となる光学教育”の具体的な講義内容を設定し,その実現に向けて進めてきました。光工学寄付研究部門で担当教官を務めていただいた黒田和男先生には,大変なご尽力をいただきました。現在のニコンイメージングサイエンス寄付研究部門では黒田先生の退官後,志村努先生が担当教官を引き継がれ,すでに多くのご指導をいただいています。
寄付講座のプログラムは現在,前半が“産業に密着した光学”をテーマとした講義,後半は光学産業で重要なレンズ設計を実際に体験してもらう「レンズ設計の実習」で構成されています。“産業に密着した光学”とは,近年大学の光学カリキュラムではあまり教えなくなっている幾何光学,波動光学,光学結像,画像処理などをメーンとした光学のことです。
また,初回の講義ではニコンを具体例として,光学産業の実情,製品開発など光学メーカーの活動・業務内容を紹介しています。この講座の開講以降,光学産業に興味を持ち,就職先に光学関連企業を選択する学生が以前に比べ増えてきたのではないかと思っています。2012年度の受講者数は,定員の上限に近い20人ほどであり,ほぼ想定通りです。 <次ページへ続く>
大木 裕史(おおき・ひろし)
1954年愛知県生まれ。1977年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。1979年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年~ニコン(元・日本光学工業)入社〔光学部(当時)に配属〕。2006年「ニコン光工学寄付研究部門」特任教授就任。2008年ニコン執行役員,コアテクノロジーセンター研究開発本部長就任。2011年ニコン常務執行役員,コアテクノロジーセンター副センター長兼研究開発本部長就任。2012年ニコン取締役兼常務執行役員,コアテクノロジーセンター長,カスタムプロダクツ事業部管掌就任。●2005年渋谷眞人,大木裕史箸『回折と結像の光学』朝倉書店刊(2005),2010年応用物理学会フェロー称号授与