OplusE 2012年6月号(第391号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
車載カメラとセンシング技術の進化
- ■総論
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■車載用高速リアルタイムステレオビジョン
- 東京工業大学 實吉 敬二
- ■車載向け周囲歩行者検知技術の開発
- 日立製作所*,クラリオン**,清原 將裕*,入江 耕太**,内田 吉孝**,村松 彰二**
- ■安全運転を支援する次世代車載画像認識LSI
- 東芝 谷口 恭弘,岡田 隆三
- ■車載用高精度視線検出を目指して
- 静岡大学 海老澤 嘉伸
- ■空撮画像と車載カメラ画像の対応付けによる自車位置推定
- 名古屋大学*,岐阜聖徳学園大学**,豊田中央研究所*** ,野田 雅文*,高橋 友和*,**,出口 大輔*,井手 一郎*,村瀬 洋*,小島 祥子*,***,内藤 貴志***
- ■画像認識技術とAR技術を搭載したナビゲーションシステム
- パイオニア 山崎 理 ,伊藤 宏平,高橋 克彦,廣瀬 智博,市原 直彦
- ■ライブ・レコーダー使用報告
- O plus E 編集部
連載
- ■【一枚の写真】赤外線の宇宙背景放射が宇宙最初の星の姿を映し出す
- 宇宙航空研究開発機構 松浦 周二
- ■【私の発言】光学技術発祥の地・板橋で,次世代へつなぐ“人づくり”を!
- 板橋区長 坂本 健
- ■【第10・光の鉛筆】6 Toraldo di Franciaの超解像3 Toraldoの方法とその後の展開
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第83回 85.ボルン近似
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】自然科学研究機構 磁性と「重い電子」は共存するか?
- ■【ホビーハウス】AR(拡張現実)で楽しむしかけ絵本
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
車載カメラとセンシング技術の進化慶應義塾大学 青木 義満
本特集では,車載カメラと画像センシングによる自動車の安全性,利便性,快適性向上に関する諸技術,システムに焦点を当てている。各国の法制化の状況から見ると,2015 年ごろをめどに歩行者検知システムの市場投入が予想されている。また,日本国内においても,ここ数ヶ月の間に運転手のミスに起因する重大な自動車死亡事故が多発している状況もあり,車載カメラと画像センシング技術に係る期待はますます高まりつつある。ここでは,自動車の安全運転支援,利便性,快適性向上を支える車載カメラ技術,画像認識アルゴリズム,車載LSI技術について,最先端の研究開発をされている諸氏に,興味深い話題提供をしていただいた。以降,概要を紹介させていただく。1.車載カメラと画像センシング技術による安全運転支援
まず,安全運転支援を目的とした車載カメラと画像センシング技術の最近の動向について,最先端の事例を紹介する。東京工業大学/實吉敬二氏には,車載用の高速リアルタイムステレオビジョンシステムについて,空間解像度と処理速度の向上を実現するための技術的ポイントを紹介していただいた。特に導入部分においては,突然の飛び出しなどの具体的事例を交えながら,空間解像度と処理速度向上の必要性を丁寧に,非常に分かりやすく解説していただいている。FPGA(Field-ProgrammableGate Array)を用いた並列パイプライン処理により,1312×688 画素の高解像度画像を150fpsという驚異的な処理速度でステレオ処理することに成功しており,すでに実用化されているステレオビジョンによる障害物検知システムのさらなる進化につながり,衝突回避可能な事例の拡大が期待される。
(株)日立製作所/清原將裕氏らには,車載向けの周囲歩行者検知技術について執筆いただいた。近年,運転者による自車周辺確認を支援するため,車体周囲に設置した複数視点カメラの映像から,仮想的な情報視点映像を生成する周囲監視システム(Overhead View Monitor:OVM)が実用化されており,運転時の死角を減らし,安全性の向上が図られている。ここではさらに,OVMと画像認識技術を組み合わせることで,単なる可視化支援にとどまらず,歩行者などの移動体検知を検知,警報する安全運転支援システムについて,アルゴリズムから現状における処理性能まで言及していただいている。
(株)東芝/谷口恭弘氏らには,安全運転を支援する次世代の車載画像認識専用LSIについて,解説していただいた。安全運転支援ための最先端の画像センシング技術を車載システムとして実現するためには,高速演算可能な画像認識LSIが必要不可欠である。また,車載向けLSIでは低消費電力での動作の実現も欠かせない。進化し続ける車載カメラと画像処理アルゴリズムを車載システムの中に組み込むために必要な車載用画像認識LSIについて,これまでの技術的発展の経緯から将来の展望まで,述べていただいている。 以上が,車載カメラと画像センシングによる周辺環境認識と安全運転支援に関するトピックスである。次は,視点を運転手に向けた安全運転支援技術に注目する。運転手の覚醒度低下,注意力低下等に起因する事故が多発する中,運転手の状態をモニタリングするドライバーモニターシステムに関する研究が盛んに行われている。注視状態,覚醒度,疲労度などの計測において,非接触なモニタリングが可能な画像センシング技術への期待は大きい。
静岡大学/海老澤嘉伸氏には,運転手の安全運転支援のための車載用高精度視線検出システムについて執筆いただいた。車載用視線検出では,通常の視線検出とは異なるさまざまな制約条件が存在する。較正の容易さや照度変化,個人差に対する頑健性などである。開発された視線検出システムでは,瞳孔- 角膜反射法と画像処理の工夫により,較正が容易で頭部の姿勢変化も許容可能な遠隔注視点検出を実現しており,車載システムとしての実用化が期待されている。
2.運転の利便性・快適性向上のための画像センシング技術
快適なドライブを支援するため,ほとんどの自動車に搭載されているカーナビゲーションシステムであるが,単なる地図情報,ルート探索・案内のためのシステムでなく,さまざまな付加価値を提供可能なマルチメディア情報端末として,新たな視点からの研究開発が進んでいる。名古屋大学/野田雅文氏らには,カーナビゲーションシステムにおいての基盤技術である自車位置推定技術について,空撮画像と車載カメラ画像,および環境地図を併用することで,高精度な自車位置推定を可能とする新たな取り組みについて紹介していただいた。従来の環境地図と車載カメラを併用した自車位置推定に対し,近年Google Mapなどの普及により入手が容易となった空撮画像をも活用し,推定精度を向上させた点が非常に興味深い。GPS 測位に画像センシング技術も合わせて位置推定精度を向上させるフレームワークは,次世代のカーナビゲーションシステムにおいて重要な技術となるのではなかろうか。
パイオニア(株)/外山聡一氏らには,画像認識技術と拡張現実感技術(Augmented Reality: AR)を搭載した新しいカーナビゲーションシステムについて紹介していただいた。車載カメラ映像をリアルタイムで画像解析し,カーナビゲーションの情報と連携してAR 表示する新しいナビゲーションシステムに関して,映像処理技術,AR 技術を中心に解説していただいた。画像認識技術だけではなく,処理結果の可視化,提示方法についてさまざまな工夫が成されている。この事例から,SFの世界のような近未来の自動車やナビゲーション技術について空想するのも良いであろう。 編集部からは,近年,運送会社やタクシー会社のみならず,個人用途でも導入が進んでいるドライブ・レコーダーについて,スペックと性能,実際の使用感について報告させていただいた。
以上,本特集はさまざま立場や観点から,画像センシング技術による安全運転支援,利便性向上を目指して研究されている諸氏に,最先端の興味深い話題を提供していただけた。ここに感謝の意を表したい。また,本特集で取り上げた諸技術のさらなる発展と実用化が,痛ましい自動車事故の減少と,運転の利便性,快適性向上につながることを大いに期待したい。