OplusE 2011年11月号(第384号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
電子部品・材料の生産革新を支援するレーザー加工技術
- ■特集のポイント
- パラダイムレーザーリサーチ 鷲尾 邦彦
- ■超短パルスレーザーによる微細加工技術
- 東芝機械 福山 聡
- ■カーフロス・ゼロを実現した内部吸収型レーザーダイシング技術
- 浜松ホトニクス 内山 直己
- ■薄膜型太陽電池製造に使用されるレーザー加工技術
- 日立造船 福田 直晃
- ■パワー半導体素子用レーザーアニーラー
- フェトン 楡 孝,松野 明
- ■シングルモードファイバーレーザーの特性と加工応用
- 古河電気工業 藤崎 晃
- ■アルミニウム合金の高速・高品質溶接
- 片岡製作所 酒川 友一,中芝 伸一
- ■
特別企画 国産マイクロ波レーダーの開発―霜田光一の戦時研究―
- ■第2回 戦時中の米軍レーダーの調査
- 東京大学名誉教授 霜田 光一
連載
- ■【一枚の写真】放射線蛍光プラスチック「シンチレックス™」の開発
- 帝人化成 清水 久賀
- ■【私の発言】いかに執着できるかに尽きる
- 立命館大学 小野 雄三
- ■【波動光学の風景】第76回 78. 高速フーリエ変換
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】情報通信研究機構「光ファイバーリンクによる光格子時計の遠距離周波数比較」
- 電磁波計測研究所時空標準研究室 井戸 哲也
- ■【ホビーハウス】着色効果をムービーカメラと絵本で
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
電子部品・材料の生産革新を支援するレーザー加工技術有限会社パラダイムレーザーリサーチ 鷲尾 邦彦
「元気な日本」復活のシナリオとして平成22 年6 月に閣議決定された「新成長戦略」によれば,強みを生かす成長分野の一つとして,グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略が明示されており,『50兆円超の環境関連新規市場』,『140 万人の環境分野への新規雇用』などが2020 年までの目標とされている。これには,太陽発電などによる再生可能エネルギーへの転換の促進,プラグインハイブリッド/電気自動車用蓄電池の飛躍的な性能向上による次世代自動車の普及,高効率照明(LED,有機EL)の効率向上と低コスト化ならびにスマートグリッドによるオフィス・住宅の省エネ化,情報家電・情報機器等の省エネ化,社会インフラのグリーン化などが示されており,電気・電子産業が今後に果たすべき役割はかなり大きいことが分かる。本年3 月11 日に発生した東日本大震災により,国内電力需給の逼迫ひっぱく,サプライチェーンの寸断などが生じ,わが国の経済システムが抱えていた潜在的な脆弱性が顕あらわとなったが,多くの日本製電子部品が他国の製品では代替できないことが世界中に知れ渡り,あらためて日本のものづくりの存在感が高まった。「大震災後の我が国の産業競争力に関する課題と対応~ かってない空洞化の危機を乗り越えるために~」と題した産業構造審議会産業競争力部会の中間取りまとめ(本年6 月)によれば,『何よりも,我が国の産業が置かれた危機的な状況を直視して,「産業構造ビジョン2010」及び「新成長戦略」に掲げられた諸施策を早急に実行することである。その上で,大震災を契機として生じた新たな課題にも迅速に対処し,日本経済再生のために必要となる施策展開を行ってゆくことが必要である。』と述べられている。レーザー加工プロセスは,「省エネルギー技術戦略2011」において,省エネ促進システム化技術の具体例として明示されており,すでに「高出力多波長複合レーザー加工基盤技術開発プロジェクト(2010 年度~2014 年度)」が発足しているが,今後さらに新たな挑戦課題にも産学官で積極的に取り組み,発展させてゆくべきものである。
米PennWell 社によれば,2010 年における市販レーザー発振器の世界市場の実績は,総額63.7 億ドルであり,うち加工用は約22.4 億ドルである1)。加工用レーザー発振器は,市販レーザー発振器市場のうちで約35% を占め,トップシェアである。その用途別売上高構成比は,金属加工47.7%,半導体・電子部品加工39.9%,マーキング7.9%,その他の加工4.6% である。また,スイスのレーザー市場調査会OPTECH CONSULTING社によれば,2010 年におけるレーザー加工機(エキシマレーザー露光機を除く)の世界市場は,約59 億ユーロであり,その産業用途別シェアは,金属加工およびジョブショップ分野が38%,電気・電子産業が37%,自動車産業が14%,非金属加工分野が11%である2)。これらから,レーザー加工の用途は金属加工用のシェアが最大であるが,半導体・電子部品加工用のシェアもかなり大きいので,それらの最新の開発動向などを,よく把握しておく必要がある。
本特集では,精密金型,基板材料,半導体,太陽電池,パワー半導体,蓄電池などの製造において使われているレーザー微細加工技術に着目し,第一線のメーカーの技術者に解説していただき,拡大する市場に向け,その重要性を浮き彫りにすることを主眼としている。
第1 稿は,東芝機械(株)の福山聡氏に,「超短パルスレーザーによる微細加工技術」と題して,執筆していただいた。高速繰り返し周波数のピコ秒レーザーを用いた微細加工技術の事例として,フィルムデバイスの成形用などに使用される精密金型への微細構造形成・大面積加工,低融点高分子材料の非熱的加工,およびサファイア基板の加工などが紹介されている。
第2 稿は,浜松ホトニクス(株)の内山直己氏に,「カーフロス・ゼロを実現した内部吸収型レーザーダイシング技術」と題して,執筆いただいた。スマートフォンやタブレットPC などのモバイル端末の軽薄短小化,高機能化が進んでいる。これに伴い,半導体メモリーデバイスは大容量化/高密度化が,また半導体ウエハーは,「薄化」,「大型化」が進んでいる。第2 稿では,半導体ウエハーの薄片化に伴うダイシング工程の技術課題などが提示され,新たに開発された「内部吸収型レーザーダイシング(ステルスダイシング)」により,これらの技術課題がどのように克服されているか,および今後の展開などを紹介している。 第3 稿は,日立造船(株)の福田直晃氏に,「薄膜型太陽電池製造に使用されるレーザー加工技術」と題して,執筆いただいた。現在の太陽電池の主流はシリコンウエハーを用いた結晶型であるが,薄膜太陽電池は今後急速に成長するものと考えられている。第3 稿では,ガラスタイプおよびフレキシブルタイプの薄膜太陽電池ならびに次世代薄膜太陽電池のレーザー加工技術について紹介している。
第4 稿は,フェトン(株)の楡孝氏および松野明氏に,「パワー半導体素子用レーザーアニーラー」と題して,執筆いただいた。直流電力を交流電力に変換するインバーターと呼ばれる回路などには,IGBT(InsulatedGate Bipolar Transistor)と呼ばれるパワー半導体が多用されており,省エネルギー化の推進のため,その高効率化が求められている。本稿では,そのような高効率IGBT を実現するために開発された,2 波長のCW(連続発振)レーザーを用いたレーザーアニーラーについて紹介している。
第5 稿は,古河電気工業(株)の藤崎晃氏に「シングルモードファイバレーザーの特性と加工応用」と題して,執筆いただいた。シングルモードファイバレーザーは,高ビーム品質であり,集光点でのパワー密度が大きいので,500W 出力程度でも,従来のレーザーでは困難であった銅,アルミ,アルミナなどの高反射率材料の加工などが行える。本稿では,このたび開発された,500W超の出力が得られるYb シングルモードファイバレーザーの構造および特性,ならびにこのレーザーを用いたいくつかの加工例について紹介している。銅やアルミなどの加工は,次世代自動車,電力貯蔵など,大型機器用途の蓄電デバイス製造用としても,今後ますます重要になるであろう。
第6 稿は,(株)片岡製作所の酒川友一氏および中芝伸一氏に,「アルミニウム合金の高速・高品質溶接」と題して,執筆いただいた。本稿では,リチウムイオン二次電池用のアルミ合金を高効率かつ安定に溶接するために新たに開発されたNd:YAG レーザー光とLD 光(波長808nm)とを重畳したハイブリッド方式の高速・高品質溶接技術につて紹介している。
本特集全体を通読いただければ,レーザーによる微細加工には,超短パルスレーザーからCW レーザーまでの多様なレーザーが,アブレーション加工,内部改質,アニーリング,溶接,切断など種々の加工目的に応じて使用されており,またそれらのビームデリバリーに関しては,スキャナーないし高速回転ステージとの組み合わせや光ファイバーによるフレキシブルなビームデリバリー,2 波長ハイブリッド照射など,多様なシステム・インテグレーション技術が試みられていることがご理解いただけるものと考える。
このように,レーザー微細加工技術の進展には,レーザー技術のみならず,材料,メカトロ,ソフトウエアなど,広範な技術力を結集して新たな価値を創造する技術融合も重要である。国内メーカーとユーザーとのネットワーキングのさらなる活発化などにより,電子部品,材料等の生産革新が一段と目覚ましい新展開を遂げ,わが国の製造業が再び元気になり,逞たくましく成長するようになることを大いに期待している。
参考文献
- S. G. Anderson: “Lasers and Photonics Marketplace 2011,”Lasers and Photonics Marketplace Seminar, San Jose, CA,USA, January 24 (2011)
- A. Mayer: “New Record in Sight: Current Status and Prospects of the Global Laser Market,” 10th InternationalLaser Marketplace Seminar, Munich, Germany, May 25(2011)