【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

自分が開発したファイバーを標準にできたのは一番うれしかった大阪府立大学 大橋 正治

運よくつながっていった研究

聞き手:大橋先生の主要な研究テーマである「フューモード光ファイバー」につきまして,研究に至ったきっかけをお教えください。

大橋:私がフューモード光ファイバーの研究を始めたきっかけですが,大学院のときにファイバー関連の研究をしていまして,その延長線上になります。
 1970年ごろ光ファイバーの研究が始まりましたが,私は1977年に名古屋工業大学を卒業して東北大学の電気通信研究所の川上 彰二郎先生の研究室でマルチモードファイバーのモード結合に関する研究にかかわりました。その後,当時の電電公社の研究所に入り,運よく光ファイバーの伝送特性や測定法を研究することができました。それで今までずっと同じような研究を行ってるという話なのです。
 最初はGI型のマルチモードのファイバーの研究でした。マルチモードファイバーは伝送容量が小さいという欠点はありましたが,それでもコア径が大きく接続が非常に容易なことから研究を行っていました。まずは近距離伝送通信用のファイバー,伝送システムとして商用化するための現場試験を行いました。  単一モードファイバの問題としては接続がありました。その後,単一モードファイバーを使った長距離の伝送システムに関する現場試験が行われたころには,融着器ができていて,そのときの判断でGIファイバーではなくSMファイバーでやりましょうということになりました。
 そこから,伝送距離や伝送容量を増やすためにファイバーの損失を下げたり,帯域を広げるにはどうすればいいのかという研究をずっとやってきました。
 1989年ぐらいに光ファイバーアンプが出てくるとファイバーの入力レベルが上がってきました。当時NTTでは分散シフトファイバーを全国に導入していました。ただ,その分散シフトファイバーは使えないと言われて,AT&T研究所のトゥルーウェブファイバというノン・ゼロ・ディスパーション・シフト・ファイバーがもてはやされて,それでWDMにこのファイバとアンプを使った長距離,大容量の動きになってきました。
 ところがしばらくするとファイバーの中には,これ以上光を入れることはできないことがわかってきました。一つは,誘導ブリルアン散乱という,入力レベルをずっと上げていくとあるしきい値を超えると入力光が戻ってくるという現象。もう一つは,ファイバーのある部分で発熱などがあった場合,そこから光源のほうに返ってくるファイバーヒューズです。ファイバーの入力レベルとしては,1ワット以上入れるのは難しいのではないかいう話が出てきて,それに対してどんなファイバーを使うのがいいかという議論が起こりました。私はそこにうまく乗れたといいますか,そういう状態のところで,当時NICTに行かれてた盛岡さんから,入力限界を打破する研究をやりませんかというお話があり,今はNICTの委託研究などに加わっています。
 それからもう一つ,フジクラさんとも共同研究を行っていましたが,その中でシングルモードファイバーで伝送容量を拡大するためには入力レベルを上げる必要があり,実効断面積を拡大したような新しいファイバーを作りませんかという話があったんです。
 でも,普通のSMで実効断面積を大きくするのはなかなか難しいので,並行して研究していた2モードファイバーで,SMと同じような形態で使用でき遅延時間がないファイバーの研究をしていました。それで今は,2モードファイバーというか,フューモードファイバーの研究をやっているということです。 <次ページへ続く>
大橋 正治(おおはし・まさはる)

大橋 正治(おおはし・まさはる)

1953年 岡山県生まれ 1972年 岡山県立玉島高校卒業
1977年 名古屋工業大学工学部 電気工学科卒業
1979年 東北大学 大学院工学研究科 電気及び通信工学専攻修了
1979年 日本電信電話公社(現NTT入社)
2002年 大阪府立大学大学院工学研究科教授
●研究分野
光伝送媒体に関する研究 次世代光ネットワークに関する研究 光ファイバセンシング技術の研究
●主な活動・受賞歴等
1997年~2008年 ITU-TSG15課題18のラポータ(3会期)
2004年,2008年 Certificate of Appreciation, ITU-T
2011年 日本ITU協会賞功績賞
2013年~ IEC TC86 国内委員会 委員長

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