新しいものを持ってきてお客さんに知らしめるというのが,私の仕事オーテックス(株) 福井 博
学生時代から,「営業という職業は絶対にやらない」と思っていた
聞き手:なぜレーザー関連を扱う商社を立ち上げたのかその経緯をお聞かせください。福井:会社を立ち上げる前にすでに十数年間レーザー関連をやっていました。会社を立ち上げた理由の一つは,まだレーザーは産業分野にあまり入っていなかったのです。ほとんどの売上げが官公庁・学校関係でした。数量を産業に使っていただくためには生半可なバックアップ体制では駄目だと気が付きまして,新たなことをしなければいけないのではないかということでオーテックスを始めたわけです。 極端なことを言ってしまうと,われわれが物を官公庁に納めて,たまたまトラブルがあったり,スペックが出なかったりということがあっても,頭をかいて「ごめんなさい」で済むのが,その時代の官公庁の営業でした。ところが,民間だとそれが利きません。問題があればすぐに取り換えなければいけません。例えば,最も安定したHe-Neレーザーでさえ,今日と同じ物が明日もできるとは限りません。同メーカーの共振器ミラーを使用していても,研磨が少し違うだけで前のパフォーマンスが出ないのです。そういうことがいろいろあって,「これで産業用に持っていくには難しいな」と思いました。だから月100本が売れればその3割ぐらいはバックアップで持っています。少なくとも生産ラインを止めないでうまく回っていくシステムにしたいということで会社を立ち上げたのが,趣旨です。
聞き手:そこまでレーザーに入れ込んだ理由はなぜでしょうか。
福井:私は学生時代から,仕事は何に就くかなというときに「営業は絶対にやらない」と思っていました。「営業というと,こういうものだ」というイメージがあったのです。私が学生時代にアルバイトをした会社,そこがたまたまレーザーの輸入販売をし始めたところで,そこに居座ってしまったのです。当時,溜池のUSトレードセンターでアメリカ製のレーザーの第1回展示会を催した後だったのです。その入場者リストが最初にアルバイトをしていた所に回ってきました。東大・阪大・京大それから一部上場の大手の企業の方のお名前がずらっと載っているリストでした。それをたよりに展示会を介して連絡を取り,商品説明に伺うわけです。 面白いことに,私が想像していた営業とレーザーを紹介する営業とは,全く意味合いが違っていました。というのは,どの方にもアポイントを簡単に取れるし,アポイントなしで行っても,会ってくれるのです。企業では肩書がありますね。結構上の肩書の方も,会ってくれます。「5分しかないよ」という話で伺っても,30分,1時間と話せるのです。知らないうちに楽しさにつられて,いつの間にか営業という仕事についていたのです。
もちろん私共も十分な知識がないですから,お客様と共にお互いに勉強したわけです。そういった意味で,レーザーを含めて周辺機器は,今でも頭を休める余地がないのが非常に面白いと思います。というのは,とにかく新しいものがどんどん出てきます。こちらも理解につとめなければいけません。それが,私にとって趣味です。同じものをやっているわけではなくて,その流れに付いていかなければいけないので,こちらもそれなりのことをしなければいけないというところが,一番魅力だったのですね。
レーザーにたずさわって,もう43年になります。私は「これを買ってください」というやり方は嫌でしたから。商品を持っていって,「こういう特徴があります」と,ぽんと投げるだけです。で,あとは「ご自由に選択してください」なのです。今でもそういうやり方をしています。全体的にいえることは,「レーザーを売って幾らもうけよう」という考え方はあまりなく,て新しいことをお客さんに知らしめるということが一番面白い仕事だと思っています。 <次ページへ続く>
福井 博(ふくい・ひろし)
東京都出身。1987年にオーテックス株式会社設立。
オーテックス株式会社はレーザ機器や電子機器などの輸入・販売を行っている。
1990年にテクニカルセンター開設し,2002年UV硬化エポキシ材料特許取得。
2008年には可視光硬化エポキシ材料発売するなど,独自の商品の開発・販売も行っている。
URL http://www.autex-inc.co.jp/index.html