常に1つのことを突き詰める,そして時々それを俯瞰し視点を変えて,新たなトライアルをしながら一貫して前進して行く東京大学 荒川 泰彦
どうせ電気に行くのならその王道である通信を
聞き手:物理分野に進まれたきっかけと,その後量子ドットを研究テーマに選ばれたきっかけをお教えください。荒川:中学から高校の半ばごろまでは,法学部で法律を勉強したいと思っていました。法律は論理として完結する美しい体系にみえましたから。実際にはそうではないことがわかるのはずっと後になってからです。それに対して,物理学は自然科学だから理論物理と言えども論理が主導しているわけではないと,考えていました。そういった思いもあり法律に関心があったのです。
ただ,父親が物理学者ということもあり,頭の片隅では物理をやろうかなという思いもありました。それで高校の2年半ばにやはり理系に行くことにしました。物理,あるいは当時は情報が少しずつ出始めていましたので,情報にも興味がありました。
一時は医学部に行こうかとも思ったのですが,やっぱり生物(なまもの)は性に合わないということで,理科一類に入りました。理科一類は最初に入った時に専攻を決めなくても良くて,大学に入ってからゆっくり考えようと思ったわけです。でも入ったころには,なんとなく漠然と物理に行こうとは考えていましたね。素粒子論をやろうかなと思ったこともありました。その一方で,工学系は社会に関わることができるので工学系も良いかなと思っていました。そういったことで,物理学と電気のどちらかにしようか迷いました。社会とのかかわりがある研究をしておきたかったという思いもありました。
そこで思ったのですが,仁科先生やディラック先生も偉大な物理学者ですが,最初は電気工学を学び,その後で物理に転向したのです。それにならって取りあえず電気をやっておいて,万一物理をやりたくなれば,その後に物理に行けば良いと思い電気を選びました。電気は,数学をいろいろ使う分野なので面白いかな,という思いもありました。当時は,電気というのは理科一類の中でもイメージが良い進学先でした。通信理論の体系に関心があったことと,どうせ電気に行ったのなら,その王道である通信だと思い,大学院では通信の研究をすることにしました。 <次ページへ続く>
荒川 泰彦(あらかわ・やすひこ)
1975年 東京大学工学部電子工学科卒業 1980年 東京大学工学系研究科電気工学専門課程修了 工学博士 1980年 東京大学生産技術研究所講師 1981年 東京大学生産技術研究所助教授 1984年から1986年 カリフォルニア工科大学客員研究員 1993年 東京大学生産技術研究所教授 1999年 東京大学先端科学技術研究センター教授(2008年まで) 2006年 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長 2008年 21・22期日本学術会議会員 2012年 東京大学生産技術研究所・光電子融合研究センター長●主な受賞
1991年 電子情報通信学会業績賞 1993年 服部報公賞 2002年 Quantum Devices賞 2004年 江崎玲於奈賞 2004年 IEEE/LEOS William Streifer賞 2007年 藤原賞 2007年 産学官連携功労者 内閣総理大臣賞 2009年 IEEE David Sarnoff 賞 2009年 紫綬褒章 2010年 C&C賞 2011年 Heinrich Welker賞 2011年 Nick Holonyak,Jr.賞 2012年 応用物理学会化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤崎勇賞) 2014年 応用物理学会業績賞