大きなブレイクスルーをしようとすればするほど,原点に戻って考えることが大切です。慶應義塾大学理工学部 慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート所長・教授 小池 康博
GI 型POF との出会い
聞き手:小池先生は,今月号の特集「フォトニクスポリマー」の第一人者で,内閣府による「最先端研究開発支援プログラム」の中心研究者30 人の中のお一人ということですが,先生がフォトニクスポリマーの研究を始めたきっかけというのはどのようなものだったのでしょうか?小池:それは,大学で大塚先生の研究室に入ってからです。私の最も尊敬する大塚保治先生の研究室では,ポリマーを使った棒状の屈折率分布型レンズの研究が行われていました。その棒状の屈折率分布型レンズに光を当てると,光は蛇行して進み,両端が平面であっても像が結像します。そのような不思議な性質に魅せられたのです。
聞き手:それから今日までずっとフォトニクスポリマーの研究をやってこられたわけですね。
小池:そうです。
聞き手:先生が開発された,現在のような高速・低損失なプラスチック光ファイバー(POF)の実現に時間がかかったのはなぜですか?
小池: POF というのはその構造により,大きく分けて2 種類あります。一つはコアとクラッドの界面で屈折率が変わるSI(Step Index)型で,もう一つがコアの屈折率が連続的に変わるGI(Graded Index)型(屈折率分布型)です。
私が研究を始めた1982 年ごろのGI 型POF は透明性が非常に悪く,伝送損失が1,000dB/km と,光は5 ~ 6m 程度しか通りませんでした。当時の日本におけるPOF の研究はSI 型を中心に行われており,低損失化のため,いかにポリマー中の不純物を取り除くかが重要なテーマでした。これに対しGI 型のPOFというのは,屈折率分布を付けるため,屈折率の異なる分子をポリマー中に分布させる必要があります。これは言い換えれば,不純物を添加しているのと同じで,まったく時流を逆行する研究だったのです。実際に,当時のSI 型POF の損失は100dB/km を切っていましたから,その差は歴然でした。それでみんなに,「小池さん,6m しか光が通らないのではしようがないでしょう。アイデアは面白いけれども,机上の空論じゃないのですか」と指摘されました(笑)。
それで私は,POF の研究を断念するかどうかの瀬戸際に立たされるのです。というのも,1982 年にGI型POF の研究で博士号を取ったのですが,大学には空きのポストがなく,そのまま大学に残って研究を続けるわけにはいかなくなったのです。その当時,ロチェスター大学からレンズの研究ということで,ちょうど誘いもあったので,POF の研究をやめてロチェスター大学に行くことを一度は決めました。しかし,どうしてもあきらめきれずに,渡米寸前にロチェスター大学に行くことをやめ,GI 型POF の透明化の研究を続けることを決心しました。そのようなときに,たまたま研究室の助手の席が空き,助手として大学に残ることになったのです。
聞き手:何か運命的なものを感じますね。