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新原理を用いたメタルベース高速光スキャナー産業技術総合研究所 明渡純

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 MEMS光スキャナー(光走査素子)は,Siミラーを機械的な共振によりねじれ振動させ,レーザー光線などを走査するデバイスで,各種センサーやレーザープリンターに応用され始めている。2次元走査することで,従来のCRTディスプレイと同様の原理で動画表示が可能で,ヘッドマウント・ディスプレイ,ヘッドアップ・ディスプレイ,大画面レーザーディスプレイにも応用できる。最近では,携帯型プロジェクターのコンポーネントとして,この素子を利用した数cm角の小型光走査モジュールの開発が急速に進展して いる。
  このような光スキャナーを用いて,高画質のプロジェクションディスプレイを実現するためには,特に高速の水平走査が必要であり,大画面ディスプレイや低消費電力の小型プロジェクターを実現するためには,大きな走査角度や少ない消費電力の動作が必要となる。
  図1は,今回新たに開発された光スキャナーである。素子フレーム部に取り付けられた圧電体による曲げ振動モードで板波(ラム波,Lamb wave)を発生させ,この板波の節の部分をミラーを支持するヒンジの付け根近傍に一致させることで,高効率にミラー部にねじれ振動を誘起する。駆動源をミラー部から離れた位置に配置することで,物理原理に忠実な非常にシンプルな共振構造とすることができ,高い走査精度のねじれ振動が誘起できる。また,駆動源の面積も容易に大きくでき,発生エネルギーも大きくなるため,大型のミラーを高い共振周波数で,かつ大きな走査角度で駆動できるようになる。
 さらに,これまでSi材で作製されていた光スキャナーを,自動車部品として利用される安価で高強度・高弾性の金属バネ材料にすることで,耐衝撃性も増し,デバイスの大幅な低コスト化にも成功した。光走査性能としては,携帯型プロジェクター用途に十分な直径1mm角以上のミラーサイズ,30kHzの高速走査で,従来比で10倍の大きな走査角度(ミラーねじれ角),あるいは,従来比で1/10の駆動電圧(消費電力)を実現した。
   図2は,この光スキャナーと蛍光体スクリーンを用いて実現したレーザーTV(レーザートロン)である。ブルーレイ用の405nmなどの半導体レーザーを,この光スキャナーで2次元走査し,スクリーンに埋め込まれた蛍光体を励起し,従来のCRTテレビのようにカラー動画を形成している。このような方式のレーザーTVは,従来のリアプロジェクション方式と異なり,自発光デバイスであり,視野角が広く,スペックルノイズがなく,輝度むらも小さい。超低消費電力の大型テレビを安価に実現できる可能性もある。

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