セミナーレポート
鉄道設備の高精度検査を実現する鉄道総合技術研究所 鵜飼 正人
本記事は、国際画像機器展2015にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
鉄道設備検査・保守の現状
鉄道においては,設備を常に良好な状態となるよう保全することに細心の注意が払われており,その意味でも,「鉄道技術はメンテナンス技術である」と言っても過言ではありません。一般的な鉄道では,営業経費のおよそ30~40%をメンテナンス費が占めていますので,鉄道運営にとってメンテナンスコスト削減は重要な課題となっています。ただし,保守費削減や少子高齢化で検査員の減少が現実となる中でも,保守レベルは維持していかなければなりません。そのためには,画像処理技術をはじめとしたICT技術の適用は不可欠であり,待ったなしの状況となっています。鉄道設備と一言に言っても,検査・保守の対象となる設備は多種多様です。大別すると,構造物,土木,保線,車両,電車線,変電,信号・通信,駅設備の8つに分けられます。これらが全て機能することを前提に,安全安定な鉄道輸送サービスが成り立っているため,鉄道メンテナンスは極めて厳しい条件下で行われていると言えます。とりわけ,橋梁,トンネルなどの構造物は戦前からのストックもあり,今後さらに経年による劣化が進む可能性があります。
鉄道メンテナンスは,設備タイプ別に,橋・トンネルなどの固定設備タイプと,車両・軌道・電力などの取り替え設備タイプに分けられます。固定設備タイプは簡単に取り替えができないため,どのように延命化するかが課題になります。また,取り替え設備タイプに関しては,メンテナンスの手間やコストを削減するため,どのようにして検査周期を延伸するかが課題になります。現在の軌道管理は,専用の軌道検測車を年4回走らせるといったように,TBM(時間基準保全)と呼ばれる一定の間隔でメンテナンスを実施しています。それに代えて,頻度良く設備の検査データを取得し,その設備の状態を把握しながら適切なタイミングで検査を実施する,CBM(状態基準保全)についても取り組みが始まっています。CBMでは効率良く大量にデータを取得し,モニタリングする必要があるので,この実現手法の一つとして画像技術が期待されています。多くの鉄道設備では「目視による状態の把握」が維持管理の基本となっています。人間が検査している部分を機械に置き換えていくことができれば,効率的なメンテナンスを実現することができます。
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鉄道総合技術研究所 鵜飼 正人
専門:画像処理,画像認識。1984/04 研究員 鉄道用安全監視システムの研究1990/04 副任研究員 鉄道用状態監視システムの開発。1996/04 主任研究員 トンネル覆工変状検査システムの開発。2000/04 主任研究員 鉄道用異常検知システムの開発。2003/04 主任研究員 画像処理型鉄道用前方監視システムの開発。2014/04 主管研究員 鉄道設備検査用画像処理システムの開発。受賞歴・表彰歴:平成24年度日本鉄道サイバネティクス協議会論文賞 優秀賞「トンネル変状抽出のための高精度画像処理手法の開発」等。