定量的画像解析による核膜動態の解明理化学研究所(理研) 研究グループ
近年の生命科学分野では,客観的で信頼性の高い画像の自動定量解析法が,多くの場面で求められている。
真核生物のゲノムを取り囲む核膜は,二層の脂質膜,核ラミナ,核内膜タンパク質群,核膜孔複合体(NPC)によって構築されている。細胞周期間期に,核膜は次の細胞分裂に備えて成長を続け,その過程でNPC数が倍加する。しかし,間期での核膜の成長過程,特にNPC形成にはまだ不明点が多く,その機構を調べるには,形成に関わる動態の定量的な評価が必要とされていた。
また,NPCの不均一分布に起因した“NPCの存在しない領域”を「Pore-free island」と呼んでおり,Porefree islandは間期初期に高頻度で観察され,細胞周期 が進行するにつれて徐々に消失する。その形状は極めて多様性に富み,NPCの輝点の濃密さで定義するため,Pore-free islandには明確な境界が存在しない。そのため,従来の画像解析技術では検出することができなかった。
同グループは,Pore-free islandが細胞周期の進行に伴って消失することに注目し,核膜動態の解明を目指した。Pore-free islandのタイムラプス観察は困難だったため,離れた時間点での変化を膨大な画像データから自動解析する定量的画像解析フレームワークを確立した。
フレームワークは,観察から画像処理,数値定量化,シミュレーションまでの一連の処理から構成されている。
その結果,間期におけるNPC形成とPore-free islandの消失に関わりがあることを見いだした。今回はNPCの構成因子のうち,一部のものを対象としたが,解析対象をNPC全構成因子に広げることで,NPC形成の全容解明に迫れる可能性がある。また,これまで核膜上のNPCの密度は,生物種や細胞種によってさまざまであることが知られていたが,それが何によって規定されているのか不明だった。今回発見したNPC形成の“場”の存在は,核膜上のNPCの密度によってその形成を制御する 機構が存在する可能性を有しており,今後の核膜孔研究に新たな方向性を示すものである。
本研究で提案した画像解析フレームワークは,Porefree islandの解析のためにオーダーメイドで考案したものである。しかし,フレームワークを支える個々の技術は,輝点分布の濃密による領域分割や,輝点の検出など,細胞内画像処理の多くの場面において汎用的に使用できるため,より多くの細胞画像の解析に役立つことが期待される。