単一分子電界発光の機構解明理化学研究所 研究チーム
有機材料を用いたデバイスは,有機電界効果トランジスター(OFET)や有機発光ダイオード(OLED)をはじめ,私たちの身のまわりでも数多く利用されている。
特定の機能をもたせた1つの有機分子を用いた素子(単一分子素子)を作ることができれば,極めて微小なデバイスが実現し,高密度化などのメリットが期待できるた め,世界中で研究が行われている。
本研究チームは,まず,分子と電極の結合を無視して,孤立した分子のエネルギー固有状態をベースに現象を記述する方法を用い,次に,分子と電極の結合の影響を取り扱うために,電圧が加えられている非平衡状態において量子力学の多体問題を扱える理論手法である「非平衡グリーン関数法」を用いて,理論の構築を行った。そして,構築した理論の妥当性を検証するために,フタロシアニン(H2Pc)分子のSTM発光に関する解析を行った結果,分子の電気伝導特性と発光特性の両方において実 験結果をよく再現できることを確認した。
さらに,単一分子の電気伝導特性の測定で得られる「輸送ギャップ」と発光特性の測定で得られる「光学ギャップ」が異なる値を示すことに着目し,今回構築した理論を用いてその理由の説明を試みた。その結果,分子内の電子間には強いクーロン相互作用が働いており,この電子間クーロン相互作用が輸送ギャップと光学ギャップの差を生む主な原因であることを明らかにした。
今後は,ほかの分子系,特に電子スピンの自由度が重要となる蛍光や燐光を示す分子や,電子と原子核の相互作用が重要となる分子などについても解析を行うことで,単一分子の電界発光過程について,より詳細な知見が得られると考えられる。