工学を学ぶメリットは分析して思考する力をもてることであり どんな分野にも応用できるニューサウスウェールズ大学 Scott Tyo
数学とは何が起こっているのかを自然に表現する別の言語である
聞き手:あなたの経歴について教えてください。タイヨ:私はアメリカ人です。父は軍隊に所属していたため,ヨーロッパで生まれましたが,アメリカ東部で育ち,ペンシルベニア大学に行きました。大学で電気工学を勉強していたとき,数年後に博士の指導教員となるNader Engheta教授は私に水中イメージングの研究プロジェクトに取り組む機会を与えてくれました。私は電気工学が専門ですが,学部時代から光学イメージングの仕事をしていました。その後,米国空軍に勤め,衛星リモートセンシングや航空機リモートセンシングに取り組む機会があり,次第に,画像処理や光学系にも取り組むようになりました。私が最終的に光学に専念するようになったのは,アリゾナ大学に移ったときで,ここでは2006年から2015年まで光学プログラムを教えていました。
現在のオーストラリアのニューサウスウェールズ大学に勤務する前に,アメリカのニューメキシコ大学,アリゾナ大学の2つの大学で働きました。私の経歴のほとんどは,光イメージングやマイクロ波イメージングおよびセンシングの応用の研究をすることでした。実際の装置から利用される情報に光波を変換するイメージングシステムやセンサーの設計方法,センサーによる光をごく基本的なレベルで情報に変換する方法や活用法に関心があります。
聞き手:現在,取り組んでいらっしゃる研究について教えてください。
タイヨ:偏光の操作と測定の研究をしています。偏光は散乱過程における幾何学的形状に関する情報を伝えるので,光が物体と相互作用すると,スペクトルは通常,材料の化学物質に関する情報を与え,偏光は形状と表面に関する情報を与えます。偏光を測定するときに帯域幅を最大にしたり,イメージング機器やセンシング機器で最高の解像度を実現する方法に取り組んでいます。私たちは,可能な限り最短の時間サンプリング,または可能な限り小さいピクセル,最大の空間分解能または波長分解能を追求しています。センサーは,限られた検出時間,空間分解能,そして波長分解能をもっています。偏光を測定するときは,何かをあきらめなければならないため,どのようにして最大化できるかにも興味があります。偏光が何であるかを推測できるようにするには,複数の測定を行い,比較します。今は,偏光センシング機器の帯域幅を最大限にするということに焦点を絞って,研究を行っています。
聞き手:研究の最も興味深いのはどんなところでしょうか。
タイヨ:私たちは,物理学で起こっている現象を数学で説明するのを楽しんでいます。数学というものは何が起こっているのかを自然に表現する別の言語であると学生たちに話しています。測定に関してどのように機能しているかを数学的に単純な方法で記述できれば,非常に役立ちます。
聞き手:空軍で働いていたことがあるとのことですが,日本では一般的に軍事関連の研究について,身近で話をする人はほとんどいないので,それが何であるか,あるいはそれがどんなものであるかについてお話しいただけますか。
タイヨ:年を追って,空軍の研究のやり方が変わってきています。私が空軍に入る前は,非常に大規模な基礎研究がありました。徐々に,基礎研究は縮小され実際の軍事問題に向けられるようになりました。ひと昔前大企業が大きな研究室を持っていたように,政府もそうでした。私が空軍にいる間は,学会に行って仲間と会ったり,論文を発表したり,軍事応用から少し離れたところで活動していました。会社で働いているか,政府組織で働いているかにかかわらず,現在の組織では物事をオープンにしないように務めています。しかし,私がいた頃は,エンドユーザーにとって重要な問題について研究できる機会をもてただけでなく,大学や国際的な仲間と関わっていく機会があったのでよかったと思います。
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Scott Tyo(すこっと・たいよ)
ペンシルベニア大学で電気工学を専攻 米国空軍勤務。ニューメキシコ大学,アリゾナ大学 オプトサイエンス教授 現在:オーストラリア ニューサウスウェールズ大学教授●研究分野
偏光計測,リモートセンシング