OplusE 2020年9・10月号(第475号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
光通信にAI?!
- ■特集にあたって
- O plus E編集部
- ■AI技術とデータ分析技術を活用した光ネットワーク物理層の状態推定
- 富士通(現職:日立製作所)*,富士通** 谷村 崇仁*,星田 剛司**
- ■機械学習適用による光ネットワークのリアルタイム自動診断技術
- 東京電機大学 平野 章
- ■AIを用いたサービス機能チェイン自動資源制御技術
- 情報通信研究機構 平山 孝弘
- ■ニューラルネットワークによる光信号の非線形歪み補償
- 明治大学 中村 守里也
- ■ニューラルネットワークによる固有値変調信号の復調性能改善
- 大阪大学 三科 健,久野 大介,丸田 章博
- ■ニューラルネットワークを用いたナノ光素子設計
- Mitsubishi Electric Research Laboratories 小島 啓介,秋濃(小池) 俊昭
- ■シリコン光回路を用いた深層学習応用
- 東京大学 竹中 充
連載
- ■【一枚の写真】専用コンピューターによる電子ホログラフィー
- 千葉大学 伊藤 智義
- ■【oe 玉手箱のけむり】その9 リモートX
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】その時点では反論できない厳しい指摘だとしても,そこでやめてしまっては,チャンスはつかめない。
- 東京工業大学 山口 雅浩
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第17回 画像AI 研究からいただいた諸子百家のメッセージ―研究開発の“うひ山ふみ”への着火剤―Messages from Hundred Schools of Thought to Image AI novice Researchers- Some Initiators for R&D “UI-YAMAFUMI” People –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【光学ゼミナール】第17回 統計光学
- 宇都宮大学 黒田 和男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度 1.2.5 瞳の湾曲
- 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 17 東京工業大学 小山・植之原・宮本研究室
- 東京工業大学 小山・植之原・宮本研究室
- ■【国立天文台最前線】第15回 20年以上も世界トップクラスの観測を続けるすばる望遠鏡
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】奥行き検出/3D表示とハーフミラーの組み合わせ
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ムーラン』『TENET テネット』『グレイハウンド』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第17回 台湾交流録 part3 ホログラフィーアート講座の始まり
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
光ネットワークに機械学習を適用してその状態を自律的に診断するには,様々な課題がある。今後ますます大容量化・仮想化が進展する光ネットワークの運用をサポートするには,機械学習を1つの機能部として生かすことで,運用コストを低減しつつ信頼性を高めることが期待される。図は,その将来イメージを示す。コア/メトロ/アクセスに広く展開する通信ネットワークに,情報収集ハブとしてのソフトウェア機能を付加することで,ネットワークおよび付随する情報を収集し,ネットワークの診断をしたり,様々なサービスを担うクラウドに提供したりするなど,将来のSmart Cityを支えるエコシステムの一翼を担うことを目指している。(関連記事「機械学習適用による光ネットワークのリアルタイム自動診断技術」東京電機大学 平野 章:詳細は626ページ)
特集にあたってO plus E編集部
光通信にAI ?!
AIブーム第3次と言われて久しい1)。AlphaGo2)が初めてプロの囲碁棋士を破ったことで大きな話題となったが,その技術の1つのポイントは深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる深い階層の処理と,様々なデータを学習する計算能力が高まったことにあると言われている。ある特徴を対象の中から検知したり,その動きの特徴からその後の変化を予測したりする確度が高まったことから,近年では自動運転技術の核として期待され,研究開発が進んでいることをご存じの読者も多いことであろう3)。一方,光通信技術はAIからは程遠い,あるいは少なくとも関係性が少ないように思われるかもしれない。確かに,光ファイバーに大容量のデータを多重化して海底ケーブルや陸上の長距離伝送ケーブルを考えた場合,技術的な主力は光源である半導体レーザーや光ファイバー増幅器,光ファイバー,受光器などの物理的なものが真っ先に思い浮かぶであろう。しかしながら,光通信システムの運用を考えたとき,AI(AIという言葉では抽象的すぎるので,以下ではニューラルネットワークと言い換えて説明する)との結びつきが有効になりそうな観点がいくつか見えてくる。
①光ファイバー断線や光送受信器の故障,光ファイバー増幅器の特性劣化の状況を察知して,
早めに予備系への切り替えを実施
②波長多重伝送信号の都市内・都市間ネットワークにおいて,チャネルごとの波長割り当てや
サーバーの資源有効割り当ての最適化
③光伝送信号の復調における符号推定・歪補償
④光デバイス設計における微細構造の最適化
以上は,ニューラルネットワークを用いて光通信ネットワークにかかわる性能の効率化・最適化を図る内容であるが,逆に,⑤光通信関連技術をニューラルネットワークの性能向上をねらって超小型光スイッチを利用しようとの動きも出てきている。
ニューラルネットワークは,かつては人間の頭脳を技術的に模倣するものとのイメージが先行し,何回か盛り上がってはいったん終息し,を繰り返してきた。今後どのように発展していくかも,まだ明確ではない。しかしながら,計算性能が飛躍的に向上してきた背景とアルゴリズムの進展の両方がかみ合って,画像の中から必要な反応時間内に目的物を見つけ出すような機能に対しては,従来の技術と比べて効率性が高まってきているのは事実であろう。ニューラルネットワークを,様々な組み合わせや過去に事例のある事象に対して高効率に目的とする機能を実現するための1つの手段としてとらえれば,その位置づけも理解しやすいかもしれない。まだ,いかなる状況においても検証結果の範囲での性能が得られるのか,信頼性に対する担保を得ることについては検討の余地がありそうだが,その解決に係る研究も今後取り組みが盛んになっていくであろう。 以上の背景を基に,O plus E光通信関連特集としては異色かもしれないが,ニューラルネットワークの光ファイバー通信関連技術への導入検討の動向について,企画を立てることとした。
まず①の光ファイバー通信伝送路の光信号の状況をモニタリングし,監視に役立てるためにディジタルコヒーレント受信器と深層ニューラルネットワークの活用が有効であるとの研究開発に関して,富士通(株)谷村氏らにご執筆いただいた。また①②にまたがる内容として,東京電機大学 平野氏には,光送受信装置のディスアグリゲーション(機能ごとの分離と複数ベンダの組み合わせを可能とする形態)の進展を背景にした信頼性の課題と,その解決の1手段としての自動診断技術の必要性,その実現手段としてのニューラルネットワークの有用性,光通信ネットワークの将来像について述べていただいた。情報通信研究機構 平山氏には,②に関連して光ネットワーク内でサーバー資源を分散・連携するにあたっての有効な配置や機能の移行についてのニューラルネットワークの活用に関してご執筆いただいた。③に関係する内容については,明治大学 中村氏に光ファイバーの非線形歪の補償に対する人工ニューラルネットワーク適用の有用性に関して,また大阪大学 三科氏らからは固有値伝送という独自の着眼による歪の課題への解決アプローチに対するニューラルネットワーク活用について,研究開発動向を述べていただいた。さらに,④に対して光デバイスの設計における効率化のためのニューラルネットワークの活用については,三菱電機(株) 小島氏らから,⑤の光スイッチのシリコンフォトニクス技術による小型・高密度集積の発展を背景に,ニューラルネットワークの高速化に応用できる革新的な技術としての取り組みについては,東京大学 竹中氏にご執筆いただいた。
ニューラルネットワークの活用の信頼性など,今後,まだ検討・解決しなければいけない問題も見受けられるが,現時点では一部の機能を光ファイバー通信の開発に効率を上げる目的として力を発揮しそうな状況もわかってきていると思われる。分野全体の今後の継続的な発展のために,どのように浸透していくか,考える一助となれば幸いである。
参考文献
1)例として,情報通信白書平成28年度版:「人工知能(AI)の現状と未来」,第1部第4章第2節,総務省(2016)
2)“Research Blog : Alfa Go : mastering the ancient game of Go with machine Learning”, Google Research Blog (2016年1月27日).
3)例として,情報通信白書平成28年度版:「IoT時代の新たなサービス」,第1部第3章第1節,3「自動走行車」,総務省(2016)
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