近赤外光を吸収する大環状芳香族の合成愛媛大学,信州大学
クロロフィルやヘムの基本構造として知られているポルフィリン類は,適切な共役拡張や官能基化により,吸収波長や物性を制御することができるので,近赤外吸収色素としての研究もさかんに行われている。ピロール-ピロール直接結合のみで構成された環拡張ポルフィリンであるシクロ[n]ピロール(n:ピロールの数)は,n=8のシクロ[8]ピロールがよく知られており,2002年に初めて合成例が報告された。周辺部にアルキル基が結合したシクロ[8]ピロールは,ピロール二量体である2,2’-ビピロールから合成され,1,100 nm付近に強いL帯という吸収を示すことが知られている。
今回,ピロール三量体である2,2’:5’2”-ターピロールの酸化的カップリング反応により,奇数個のピロールで構成されるシクロ[9]ピロールを選択的に合成することに初めて成功した。この分子は34π芳香族性を示し,X線結晶構造解析によりC2対称の分子構造をしていることを明らかにした。このシクロ[9]ピロールの吸収スペクトルでは,1,740 nm付近の近赤外光を強く吸収することが明らかになった。