OplusE 2022年3・4月号(第484号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
結像しない結像光学系:コンピュテーショナルイメージング
- ■特集にあたって
- 東京大学 志村 努
- ■コンピュテーショナルイメージング概説
- 東京大学 堀﨑 遼一
- ■「散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学」におけるコンピュテーショナルイメージングの活用
- 神戸大学 的場 修,全 香玉
- ■インコヒーレントデジタルホログラフィーによる被写体の3次元情報取得
- 日本放送協会 放送技術研究所 室井 哲彦
- ■コンピュテーショナルイメージングによる3次元形状計測
- ニコン 栢場 皓之
- ■Computational Light Field Imaging-深層学習を活用した光線情報の効率的な撮像法
- 名古屋大学 高橋 桂太
特別企画
- ■国際画像機器展2021 招待講演
- アドダイス 伊東 大輔
- ■国際画像機器展2021 招待講演
- キヤノン 穴吹 まほろ
連載
- ■【一枚の写真】サンゴがもつ緑色蛍光タンパク質の働きが明らかに
- 琉球大学 高橋 俊一
- ■【oe 玉手箱のけむり】その18 光とベンチャー
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】人は変えられなくても,自分自身は変えることができる
- 東京都議会議員 福島 りえこ
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第25回 新エッジ保存平滑化法が精密工学からやってきた!-JSPEがくれたIAIPへの贈り物-New Edge Preserving Smoothing Method has come from Surface Roughness Measurement! -A Good News to IAIP Image Technology from JSPE -
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第6回 技術動向:赤外線イメージングの話題
- 名雲技術士事務所 名雲 文男
- ■【レンズ光学の泉】第2章 点像 2.3.3 グイ位相シフトと微小位相物点のデフォーカス像の見え方
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 26 慶應義塾大学 神成淳司研究室
- 慶應義塾大学 神成淳司研究室
- ■最終回【国立天文台最前線】第24回 これからの国立天文台と日本の天文学
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】身近な光学薄膜による干渉色
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『THE BATMAN -ザ・バットマン-』『SING /シング:ネクストステージ』『私ときどきレッサーパンダ』『アダム&アダム』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第26回 イギリスへ 再び―レイクフォーレストから羽ばたく―
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真はGFPをチューブリンで発現させたタバコ培養細胞の3次元蛍光イメージングの結果である。通常の落射型蛍光顕微鏡では,被写界深度の範囲のみフォーカスが合うため,奥行きに広く分布する対象では一部の場所しかピントが合わない(左図)。強度輸送方程式を用いて3枚の強度画像から位相情報を抽出する。この強度画像から振幅情報を求め,先の位相情報と合わせて,光波の複素振幅情報を得る。計算機内で光波伝搬計算し,伝搬距離を変えていくことで断層画像として3次元再生画像を得る。その断層画像から四角で囲んだ位置の細胞に焦点の合った画像を選択したのが右図である。(関連記事「「散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学」におけるコンピュテーショナルイメージングの活用」神戸大学 的場 修,全 香玉:詳細は127ページ)
特集にあたって東京大学 生産技術研究所 志村 努
結像しない結像光学系:コンピュテーショナルイメージング
本特集のタイトル「結像しない結像光学系」は,日本語としては矛盾を含む,極論すれば正しくない表現である。正しくは「光学的な結像を行わないで画像情報を取得する手法」というべきかもしれない。ただ,短い言葉で内容を表現することを優先して,あえてこのようなタイトルにさせていただいた。古典的には,画像情報を入手するには,レンズによる結像により物理的な像を作り,直接目で観測するか,銀塩感光材料などを用いて画像として記録していた。それが撮像素子の登場により,アナログの電子情報として記録することが可能になった。テレビがその代表例である。さらにコンピューターの発達により,扱える情報量が飛躍的に増大したことと,固体撮像素子の発達により,物理的に結像した画像の光強度分布をディジタル情報として記録することができるようになってきた。この結果,ディジタルスティルカメラ,いわゆるデジカメが銀塩フィルムカメラを駆逐してしまった。現在では画像情報はディジタル化して記録するのが当たり前になっている。
ディジタル的に記録されていれば,取り込んだ画像情報に画像処理を施すことも自由自在である。対象物を斜めから撮影した場合の歪みの補正のみならず,結像光学系の不完全性,収差や回折の影響を画像処理によって補正して,対象物の真の姿により近い画像を再現することも可能になってきた。現在,店頭に並んでいるデジカメの多くは,回折ボケの補正,収差の補正機能を持っているものが多く,使用者が意識しなくても,これによりひそかに像の補正が行われている。スマホのカメラの写りが良い原因も,この補正による部分が大きい。高級なレンズ交換式カメラでは,各交換レンズの画角ごと,撮影距離ごとの収差データに基づいて,きめ細やかな補正を行える機種もある。
このように,画像処理により不完全な光学像からより被写体の真の姿に近い画像情報が得られるということになれば,光学的な像を作らなくても被写体の情報は得られるのではないか,と考えるのが自然な流れである。これが本特集で取り上げるコンピュテーショナルイメージングの発想である。
本特集では,まず東京大学の堀﨑遼一先生に情報科学とイメージングの関係という観点で,コンピュテーショナルイメージングについて概説していただいた。レンズを使わないで伝搬途中の光の情報から画像情報を取得するのが典型例で,光波の複素振幅情報をどのように強度情報に変換するかが重要である。また,最近はやりの機械学習との関係についても述べていただいた。
これにより様々なことが可能になるが,大別すると2つの方向性があると思う。1つは結像装置の小型化である。物体の本来の姿により近い像を得るために,収差を減らし,画角を大きく,という方向で光学系のスペックを上げていくと,レンズ枚数は増え,重量は増し,サイズは大きくなっていく。これに対してコンピュテーショナルイメージングを利用すると,光学系の劇的な小型化が可能になる。もう1つは従来の光学系では不可能な情報の取得である。神戸大学の的場修先生らには,霧の中や生体内部といった,散乱体の向こう側の情報を取得するためのコンピュテーショナルイメージングについて解説いただいた。また,3次元情報の取得も1つの例である。NHKの室井哲彦様には,レーザー照明の必要のない,インコヒーレント光によるデジタルホログラフィーについて解説していただいた。照明に自然光が使えるということは,被写体に対する制限が大幅に緩和されることになる。(株)ニコンの栢場皓之様には,カメラを用いた3次元情報取得の最新動向について,光量の小さい場合も含めて紹介していただいた。最後に,名古屋大学の高橋桂太先生には光線情報の取得に基づく3次元画像情報の取得について述べていただいた。
計算機の能力の進歩はとどまるところを知らない。半導体の微細化が頭打ちになり,計算機の能力も頭打ちになるのではないかという危惧もあったが,あの手この手で単位体積あたりの容量は増え続けている。CPUの能力も同様である。イメージングにおいて,計算に頼れる部分は今後もどんどん拡大すると考えられ,物理的な系の小型軽量化も,系の高機能化も今後ますます進んでいくことと思われる。
OplusE 2022年3・4月号(第484号)掲載広告はこちら