OplusE 2022年7・8月号(第486号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
見えないものを見る
- ■特集にあたって
- OplusE編集部
- ■「見えないものを見る」とは何だろうか?
- 大木 裕史
- ■超解像が当たり前の時代の顕微鏡技術
- ニコン 楠井 雄太
- ■組織透明化技術を介したマクロスケールからナノスケールへのズームイン
- 順天堂大学*,大阪大学** 日置 寛之*,山内 健太*,古田 貴寛**
- ■目から全身をみる眼底イメージング技術の潮流
- トプコン 南出 夏奈
- ■仮想地球サイズの望遠鏡で見るブラックホールの姿
- 国立天文台 永井 洋
- ■高コントラストによる地球型系外惑星の探索
- 国立天文台,総合研究大学院大学,アストロバイオロジーセンター 西川 淳
特別企画
- ■画像センシング展2022 特別招待講演(イメージング・画像処理)
- 東京大学 堀﨑 遼一
- ■画像センシング展2022 特別招待講演(自動運転・センサーフュージョン)
- 芝浦工業大学 伊東 敏夫
連載
- ■【一枚の写真】人間重心検知疲労評価システム
- 東京海洋大学 渡邉 豊
- ■【oe 玉手箱のけむり】その20 チャイコフスキーが泣いている
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】自分に合ったやり方で,モチベーションを維持できる方法を見つけてほしい
- 東京大学 トム・ガリー
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第26回 サッカードに駆動された「b-KIZKI」アルゴリズムの秘密-人にもっと学ぶキズ検査-On beyond-KIZKI algorithm finely supervised by Saccade- A further Hint from Human Vision for Defect Inspection –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第8回 マシンビジョンカメラの光学系(2)
- 東芝テリー 山口 裕 監修:名雲 文男 [正誤表]
- ■【レンズ光学の泉】第2章 点像 2.4 軸外の点像
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 28 東海大学 藤川研究室
- 東海大学 藤川研究室
- ■【ホビーハウス】魅力的なディスプレイに使われる古くからの技術
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ゴーストブック おばけずかん』『TANG タング』『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第28回 香港と深圳の旅
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
8分割位相マスクは,光に位相差をつける透過型光学素子で,高コントラストの系外惑星直接撮像において恒星の回折像を消去する一端を担う。隣接領域ごとに速軸方位角を直行させたフォトニック結晶の半波長板で,層ごとに方位角を調整した3枚を貼り合わせて波長1.1~2. 1 μmに広帯域化し,すばる望遠鏡に搭載中。赤外用の幅広の縞構造のため可視光では回折で色づく。表裏と接着面の4面にある赤外反射防止コートが可視光では反射膜となり,接着面に縮退した本物の2層の下方に鏡像が多数映る。村上尚史氏(北海道大学)との共同研究で製作。(関連記事「高コントラストによる地球型系外惑星の探索」国立天文台,総合研究大学院大学,アストロバイオロジーセンター 西川 淳:詳細は388ページ)
特集にあたってOplusE編集部
見えないものを見る
われわれが物を見るためには,対象物で光が何らかの変調を受け,その変調された結果を検出する必要がある。しかし,対象が小さすぎるから,遠くにあるから,真空下では水分が蒸発してしまうから,光が回折・散乱・吸収されて検出されないから,信号が微弱すぎてノイズに埋もれてしまうから,などなどの理由で,見たくても見えないものがたくさんある。人類はこれまでに,小さいものや遠くにあるものは拡大し,光の回折・散乱・吸収に対抗するためには,集光効率を上げ,波長を選択するなどの工夫を重ねてきた。また,材料の光に対する機序を利用する手段も手に入れてきた。最近も,様々な工夫を凝らしてさらに検出能を高め,見るためのハードルを下げる努力がなされている。本特集では,まず大木氏に「『見えないものを見る』とは何だろうか?」と題して,哲学的,生物学的,そして物理学的に「見る」という事象の基本概念を紐解いていただき,特に光学系による解像の限界を超えるには数学力を鍛えることも重要であるとの提言をいただいた。
次に「超解像が当たり前の時代の顕微鏡技術」について(株)ニコンの楠井氏から,いわゆる回折限界を超える超解像技術のほかにも,最近注目されているコンフォーカル顕微鏡に2次元撮像素子を組み合わせたImaging Scanning Microscopyの原理を解説していただいた。
また,対象標本側からのアプローチとして,順天堂大学の日置氏らには「組織透明化技術を介したマクロスケールからナノスケールへのズームイン」として,標本内の散乱を抑える透明化手法と,空気中から真空下への環境変化でも標識を維持する技術について述べていただいた。これにより,高ダイナミックレンジのマルチスケールイメージングが可能になり,医学,薬学への展開が期待される。
さらに,「見る」器官でありながら実は「見られる」対象としても注目されている眼底に関して,(株)トプコンの南出氏に「目から全身をみる眼底イメージング技術の潮流」を紹介していただいた。眼底の毛細血管画像の機械学習による診断支援の動きや,網膜の内部構造を様々な手法で分析する技術が進むなど,アンメットメディカルニーズ解決への躍動が感じられる。
ここで,目を宙(そら)へ転じ,国立天文台の永井氏に「仮想地球サイズの望遠鏡で見るブラックホールの姿」と題して,約25 μ秒角という超微小角度の解像度を達成した超解像望遠鏡技術のご報告をいただいた。テレビニュースでも話題になったブラックホールの画像化の成功を支えたのは,地球規模の協力体制に加えて,画像化に際しての鍛えられた数学力であった。
同じく国立天文台の西川氏には「高コントラストによる地球型系外惑星の探索」として,恒星の影響を限りなく排除して惑星を検出するための種々の工夫をご紹介いただいた。超解像顕微鏡でも使われている位相板によるPSF(Point Spread Function:点像分布関数)の制御技術や,高度なスペックル除去技術により,地球に似た惑星の光から生命活動の痕跡を見い出せる日も近いかもしれない。
変化が激しく産業の将来が見えない時代,答えを自ら見つけ続けることが重要である。このような世の中を見通すためにも,「見えないものを見る」努力は永遠に続く。
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