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第6回 ブラジル紀行

東京,サンパウロ,ヨハネスブルク


 出品作家はブラジルのほか,カナダ,フランス,南アフリカ共和国などから来ていた。その中には,ロチェスター工科大学で学んだルイスの留学時代からの友人で,その後活躍しているアーティスト達も,この実験的な展覧会に招かれていた。ヨハネスブルクからの写真をメディアとする,アングロサクソン系のある女性アーティストは,気さくな人柄で,少し親しくなった時,私はつい不躾な質問をぶつけてみた。それまで南アフリカの人と出会ったことがなかったし,数年前(1990年)までアパルトヘイトが現存していた時代であったからだ。普段の生活の中にも差別はあるのか? それをあなたはどう感じでいるか?など,私は彼女に単刀直入に聞いた。すると,子供時代は家にメイドがいて傅かれる生活をしていたという。彼女のおばあさまの世代では,差別は日常のあたりまえの振る舞いであったらしい。差別はされる側はもちろんのこと,する側に立ったとしても,私にはuncomfortableなことだと伝えると,子供時代は日常の普通のことだと思っていたが,今は違う感覚だという返事が返ってきてほっとした。いろいろな国の作家同士が,滞在中に準備作業などを通して知り合い親しくなれることは,国際展に参加する醍醐味の一つである。
 1993年の最初の展示では,事前に会場の様子もわからず,主催者は航空会社の後援を取り付けることができなかったため,作品の輸送費を捻出できなかった。そこで,私は急きょホログラムのフィルムをロール状にしてスーツケースに入れてハンドキャリーすることにした。ところが,展示するつもりのホログラムのサイズがスーツケースに収まらなかった。しかたなく,収納できるサイズに合わせて短辺をさらに小さくカットし,70 cm×140 cmのレインボウホログラム草原シリーズ(図3)を展示することになった。アクリルは現地調達した。会場では大きなホログラムの設営は初めてで,照明の位置合わせも苦労した。周りの環境も明るすぎると再生像は昼行燈よろしく効果が薄れてしまう。引きがなくホログラムに近づきすぎると画像は良く見えない。展示状況は妥協の産物となった。
 少し小さくカットされたこの草原シリーズのホログラムは,持ち運びやすいという理由から,2008年国立台湾師範大学で開催されたHODIC in Taiwan 2の展示用でもハンドキャリーし,現在は師範大学の公館キャンパスの正門を入ってすぐ左側の綜合館の玄関ホールの壁面に常設されている。ホログラムはフィルムのままでは常設に適さず特別の加工を施したが,この話題は後にあらためて触れることにする。



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