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第9回 旅するホログラム part 1

盗まれた!


 1984年,フランクフルト,マイン川のほとりに建つフィルムミュージアムで開催された「Licht-Blickeホログラフィー展」は,斬新で実験的な展覧会であった。ホログラムのついたA4 ,厚さ2.5 cmの豪華なカタログ(図4)が作られた。さすがドイツは活版印刷発明の国,本を大事にする文化国であると感心した。設営には,従来のミュージアムの設備では対処できない,いろいろな問題をクリアするため,徹夜もいとわずがんばる若い企画者の様子を見て,このメディアの理解度はどこの国でもまだこれからなんだなぁとしみじみ・・・。彼らの苦労がわかるので複雑な気持ちであった。小石は造園業者から取り寄せられ,少しグレーがかってはいたがまずまずで安心した。設営を終え,初日オープニングに出席して,すぐ帰国した。約4か月の会期最終日翌日,フランクフルトから電話がかかってきた。何事かと思いきや,ホログラムが1枚盗まれてしまったという。床に置いただけの作品だから, セキュリティーにはかなり気をつけ,閉館後,毎日ホログラムの数を確かめて注意していたという。会期中ずっと無事で喜んでいたが,最終日を終えて数えたら1枚足りない。盗まれてしまったという。それにしても,最終日に盗むとは確信犯に違いない。私のホログラムが盗難にあった話はいろいろあるが,それは別の機会にするとして,この作品はホログラムが1枚欠けたまま,その後,ドイツの複数の都市を巡回展示されて,1年後に日本に戻ってきた。
 空港に着いたと連絡が入り,通関手続きをする段になって,大変なことに気づいた。無事日本に着いたのは良かったが,通関手続きで高額な関税の請求書が私に回ってきたのだ。算出対象額は展示の保険額相当で,新規の輸入品の関税だから,かなりの高額だ。とても日用品の比ではない。こんな事態を避けるため,実は,私は出荷時にカルネ手続きで送り出していた。カルネは,再輸入を前提にした便利な手続きである。ところが,その書類が荷と一緒に戻らなかった。展示の巡回をしているうちに紛失されてしまったらしい。税関にいくら事情を説明しても,書類がないので埒があかない。先方の落ち度で生じた支払いなので,送り主が対処するようにと,私は断固支払いを拒否していたら,結局,作品はそのまま空港に留まり,数か月が過ぎた。保管のための倉庫料もどんどん加算されていくに違いなかった。そんなある時,ドイツ大使館から連絡が入った。通関手続きのことで困っているらしいので対処するようにと本国から連絡が入ったとのこと。これこれしかじかで困っていると説明した。結局,大使館がすべての費用を支払い,通関手続きを済ませ,問題は解決した。作品は欠けた1枚を除き,無事に私の手元に戻り,そして,大使館の人はゴメンナサイと言ってくれた。大使館の仕事はいろいろあるものだと思った。日本の大使館だったらどうであろうか?

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