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第14回 太陽の贈り物シリーズ part 3 古代ローマ遺跡のインスタレーション

古代アッピア街道


 野外作品は広い空間との戦いでもある。最初のプランが図4である。作品全体のタイトルを「光の工程」とした。図5は案内状だ。制作したオブジェ(図6 ,図7)の数は300個,素材のパーツはすべて事前に現地に送っておき,組み立てだけ現地で行うことにしたのだが,7~8人がかりで行い,地面に設置する作業も含めると1週間以上を要した。準備作業をしているあいだも,博物館は開館中だった。したがって,博物館の入館者たちは必ずと言ってよいほど,作業中の我々のところに近寄っては声を掛けてきた。遺跡の草むらに何やら見える鮮やかな虹の色に興味をそそられるらしかった。そして,とにかく無事にオープンにこぎつけた。
 建物遺跡を背景に,丘の中腹の直径80 mのインスタレーション作品が図8である。円の中心に数十個のオブジェを集中させ,そこからの魚眼レンズによる景観が図9である。このインスタレーションはアッピア街道を走る車の中からも,丘の緑の中に輝く鮮やかな光の色が良く見える。遺跡の建物を左手に眺めながら丘を上がっていくと,右手に広い原っぱが広がる。そこにはsinカーブを描いたインスタレーションを設置した(図10)。丘の上に立って改めて気づかされたのは,“なんと空の広いことか! ”。しばらく体験したことのない風景が目の前に広がっていたのだ。  丘の上には貯水槽として使用された石の遺跡建造物(図11)があった。実は野外作品のほか,その建物の中では,水と大型のレインボウホログラムのインスタレーション(図12)「アクエウスのつぶやき」を展示した(図13(a)(b))。下見打ち合わせに訪れた時,この建物遺跡のことを知り,水とホログラムのインスタレーションにぴったりの空間と考えたからである。
 会期中も,作品の側にいると,必ず誰かが話しかけてくる。遺跡空間と不思議な現代アートの組み合わせに興味を覚えるらしい。その多くが海外からの旅行者であった。さすが古代ローマ遺跡の博物館である。図14はロシアからのビジターとの記念撮影である。私が作者本人と分かると,サインまで求められた(笑)。  会期中,外国から博物館に私あての電話がかかった。初回は私が外にいて取り次ぎされなかったが,伝言で翌日指定の時間に電話の前で待ち受けていた。ドイツのプルハイムでホログラフィーミュージアム(O plus E 2019年7・8月号掲載)を立ち上げたマティアス・ラウクからだった。私は案内状をヨーロッパの知人たちに送付したが,それを見ての連絡であった。知人の少ないイタリアで,わざわざ電話をくれて旧交を温める会話はうれしかった。携帯電話がまだ普及してない頃である。「今南仏に住んでいる。ローマからそんなに遠くないから,展覧会が終わったら立ち寄らないか?」と誘ってくれた。残念ながら貧乏暇なしのニホンジンアーティストには難しかった。2年後,彼が亡くなったことを知った。南仏滞在は療養中だったと後で知った。私のドイツでの多くの活動を支えてくれた人物で,ローマでの何気ない会話は忘れがたい思い出になった。 <次ページへ続く>

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