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第25回 Art in Holography 2 ロビン・フッド伝説の郷 ―ノッティンガムにて

嵐が丘とストーンヘンジ


 イギリス中央部からの鉄道の旅のついでに,シンポジウムからの帰路,せっかくの機会なので,ロンドンに直帰ではなく少し寄り道をすることにした。そのまま南に下って巨石遺跡ストーンヘンジを観光した。ちょうど近くに両親の家があるというホログラフィーアーティストのPaul Newmanに案内をお願いした。レイクフォレストのシンポジウムで出会って,よく知っている人物だ。名前も実に覚えやすい。世の中に同姓同名は数知れずいるが,売れっ子俳優と同じ名前なら覚えられやすいであろう。お兄さんが日本に英語教師として滞在しているという話も,親しく話すきっかけとなった。
 世界遺産は,我々がよく写真で目にするストーンヘンジとそこを中心に登録面積約26 k㎡の地域全体をさす。そのエリアにはいくつもの先史時代の巨石建造物群があり,“ストーンヘンジ,エーヴベリーと関連する遺跡群”として登録されている。よく知られているストーンヘンジをまず案内してもらった後に,もっと興味深いところを案内すると言って連れていかれた場所が,エーヴベリー遺跡群のあるエリアであった。この周辺はまったく観光化しておらず,周辺には小さな集落があるだけの広大なエリアに,サークル状に立てられた加工を施されていない自然の巨石群や,単一で直立した巨石記念物が点在していた(図6)。長大な巨石が縦に立てられ列をなして,先史時代から現代まで数千年間そこに存在している様は実に壮観であった。巨大な石を前に畏怖の念さえ覚える。もっとも,ほどよいサイズの石は数千年の間に,後世の人間によって利用価値の高い石材として家の建材などのため取り壊され持ち去られたものもあったという話である。現代にまで残るということは驚くべき事実である。このエリアは白亜の大地で,土地は瘦せているのであろうか。農場ではなく林と草原(くさはら)がひろがるばかりで,訪れたのは9月半ば,今にも雨粒が落ちてきそうな曇天のせいもあろうが,草原に立つ巨石をかいくぐって吹き抜ける風は,荒涼とした景色の印象も手伝って身が引き締まるように寒かった。この寂莫感あふれる風景の中に佇んでいると,ふと“嵐が丘”が連想された。その昔読んだ小説の内容はあまりよく覚えていないが,イギリスの荒涼とした景色のイメージはずっと脳裏に残っていて,この地に立ってなぜかストンと腑に落ちた。温暖湿潤気候に暮らす東京人の筆者には,想像もつかない別世界の景色であった。
 この地をよく知る人に連れてきてもらわなければ体験できない貴重な観光であった。友に感謝である。そして,今回のノッティンガムに始まるイギリス訪問は,英国ならではの一面を体現できた旅であった。

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