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第26回 イギリスへ再び―レイクフォーレストから羽ばたく―

移設例3および4


 3例目は,内幸町の交差点角に面した宝くじドリーム館のウインドウディスプレイ「麗うらら」である(図9)。1988年に設置されたこの施設が,2003年,京橋に移転することになった。ウインドウディスプレイはホログラムだけが取り出され,新しい場所に引っ越すことになった。ホログラムは1枚ずつに分解してクリーニングし,新しいフレーミングを施し(図10),新しい空間の柱の装飾となった(図11)。この例では,ホログラムはそのまま移設されるのだが,まったく異なる見せ方となった。柱の背景にあるスクリーンを上げると,年末ジャンボ宝くじなどの抽選会場のステージが現れる。館内の歴史展示によると宝くじのルーツというのは,江戸時代の富くじにさかのぼるそうだ。江戸も現代も,人間社会はあまり変わらないものだとおかしさが込み上げてきた。  4例目は,現在田町のCICセンター(キャンパスイノベーションセンター)玄関ホールに設置されている「未来の贈り物」である。2004年に移設工事が行われた。黒御影石のベースに25 cm角のDCGホログラム60枚をステンレスの構造体(230 cm×230 cm径)に組み込んだ立体オブジェである。1983年,最初の設置は横浜のビルで,作業は現場で組み立てられたため,移転が決まった時,そのままの形で運び出すことは不可能だった。そこで,結局,構造体すべてを解体することになり,これを機に構造体も含めてすべてクリーニングを施した。20年間の汚れは,室内とはいえホログラムのガラス表面の汚れは相当なものであった。画像は,クリーニング後に改めてフレーミングされたホログラムのパーツ(図12)と田町での組み立て現場風景(図13)である。天井の高い空間に合わせ,スチールのベースを加えて45 cmほど高く設えた。下方からの照明の電源コードが足元の邪魔にならないように,床下から配線を施した。これを可能にしたのは,建物が幸いにも免震構造であったため,床下の空間から配線を導き,床に穴をあけて的確な位置にガイドできたためである。図14は,完成後,建物の外から眺めた夜のシーンである。  この作品にも,講演発表後に後日談が続く。2011年三陸沖地震後,節電を理由にホログラム再生用の照明が長いこと(5年以上)切られてしまったのである。照明はホログラムの命ともいえるものなので,長い間残念な状態に陥っていたが,ついに筆者も意を決して大学側に直訴し,やっと数年前に照明が復帰した。ところが, 6台あるライトのうち2台が,現在故障中で点灯していない。ランプが切れているのではなく電源の故障らしい。メーカーに問い合わせたところ,すでに製造停止のデバイスで,修理不能という。設置して15年以上は経つが,それにしても照明技術の進歩はめまぐるしく早い。そのぶん,同じ技術を長い間使い続けることができないという不便さが生ずる。ホログラフィーに携わるようになって,照明技術の急激な変遷から生じる便利さ,不便さは,身をもって実感しているのである。現在,新しい照明の改修が可能か,問い合わせ中である。ところで,最近CICセンターについてさらなる情報が入ってきた。田町キャンパス再開発計画の発表で,2025~2026年ころには付属高校やCICセンターの建物が取り壊されるようであるらしい(センターはまだ,新しく建築なのに…である)。とすると,この作品はこの先どうなるか? ランプの故障がどうのと言っているレベルの話ではない。ショッキングなニュースであった。制作者の手からすでに離れた作品は,筆者が口出しできる立場でもなく…。また,限りある命,気になるからと言って,いつまでもウォッチングできるわけでもなし…。
 建築と一体となった作品は,その建物と運命共同体となる。もし,その建物が時の流れに動じない存在なら,作品は安泰に存続していくであろう。しかし,建物さえ消耗品扱いされるような,めまぐるしく変化する環境下では,作品は言わずもがななのだろうか? レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐でさえ,後に壁にドアを付けるために,絵の一部が切り取られてしまったのであるから。どうもこのメンテナンスのテーマは,ネガティブな苦労話ばかり思い浮かんできて困る。

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