植物の青色光受容における分子機構の一端を解明理化学研究所,慶應義塾大学 研究グループ

 理化学研究所,慶應義塾大学の研究グループは,大型放射光施設「SPring-8」の放射光を用いたX線小角散乱法によって,植物個体の光屈性や葉緑体の細胞内運動を制御する青色光受容タンパク質「フォトトロピン2」の全長の立体構造を明らかにしたと発表した。
 1880年,チャールズ・ダーウィンらは,光の方向に植物の茎などが屈曲する「光屈性」という植物における光合成効率を最適にする運動を発見した。その後の研究で,光屈性の原因タンパク質として,青色光受容によって制御されるタンパク質フォトトロピン1とフォトトロピン2が見い出されている。特に,フォトトロピン2が青色光受容すると,その信号が酸化酵素ドメインに伝達され,他のタンパク質をリン酸化してさまざまな細胞運動を誘起する。 一方で,青色光という物理刺激をリン酸化という生体内信号に変換するメカニズムは解明されておらず,この分野での大きな課題となっている。
 これまで,フォトトロピン2の全長を大腸菌などで大量に発現することは難しく,LOV1とLOV2ドメインの結晶構造および,リン酸化酵素ドメインのバイオインフォマティクスによる予測構造が知られているだけだった。
 同グループは,フォトトロピン2の全長を大腸菌で大量発現させる系とその生化学的な精製方法を確立,その立体構造をSPring-8の放射光を用いて調べた。その結果,溶液中ではフォトトロピン2が2つ組み合わさって,二量体として存在していることが分かった。また,暗中と青色光照射下での測定を行い,暗中では棒状構造のフォトトロピン2が,青色光照射によって折れ曲がった形に変化することを見い出した。これは青色光受容に伴って分子が大きく変形することやフォトトロピン2を構成する2つの光受容ドメインLOV1とLOV2の役割が明らかになるという成果を示す。
 今回の成果は,今後,生体における光センシングの解明につながると期待できる。また,フォトトロピンのような光受容分子は,光を利用して細胞を制御する光遺伝 学に利用され始めている。光刺激をリン酸化に変換する分子機構が解明できれば,光によって遺伝子発現を制御する光遺伝学への応用も期待できる。

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