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ヴァイオリンの駒の光弾性観察東京工業大学 半導体MEMSプロセス技術センター 松谷晃宏

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 ヴァイオリンの4本の弦は,駒(bridge)で支えられている。弓毛で擦られた弦の振動は,駒を経てヴァイオリンの胴体に伝わり音として放射される。駒の振動の様子は有限要素法解析やホログラムを用いて観察された例があるが,今回「一枚の写真」で紹介するのは,いろいろな形状の駒の応力状態を,光弾性を利用して可視化した結果である。
 観察にはエポキシ樹脂で製作した駒を使用した。これは,木製の駒をシリコンゴムで型取りしてエポキシ樹脂を流し込み製作したものであり,忠実に実物を反映している。図1に440Hzを基準にして調弦した時の現代の標準的な駒の形状の光弾性写真を示す。A弦の下に比較的大きな歪みが生じ,全体的に見ると非対称であることが分かる。これは,左右対称の形状の駒(図2)では左右対称の応力状態が観察できることから,応力は駒の形状に関係していると考えられる。穴の無い駒,ハート穴だけの駒,ハート穴が無い駒を作って光弾性観察した結果が図3~図5である。ハート穴が無い時にはE弦とG弦からの力が直下の両足にかかっているが,図4のようにハート穴の効果で力を穴周辺に集められることや,図5のような切り欠きにより駒に加わる力は上下に分散されるということが分かる。現代の標準的な形状の駒の歪みは,これらを組み合わせたものと考えると理解しやすいだろう。
 ところで,ヴァイオリン製作の巨匠Antonio Stradivari (1644~1737)の時代のバロック型の駒の形状や穴位置は図6のように現代の駒とは大きく異なる。応力状態も現代の駒とは異なり,バロック型の駒ではA弦とD弦の下部に歪みがあることが分かる。また,中央の穴周辺部分で現代の駒とバロック型の駒では歪みの状態と穴の形状がほぼ対称的であることは大変興味深い。
 このように,光弾性を利用すると弓で弾く時に駒に加わる力の方向なども観察できる。美しい音で演奏される時と弓を押し付けて弾きギーギーと不快な音を出している時では,駒に加わる力の方向が異なることも観測できる。今回紹介した駒の実験については拙論で音響特性なども報告してあるので興味のある読者はご覧いただきたい1),2)
 筆者は長年ヴァイオリンとヴィオラを演奏しており,芸術と科学の橋渡しをしたいと考えている。このような実験観察がその一助となれば望外の幸せである。

参考文献

  1. A. Matsutani:“Study on bridge of violin by photoelastic observation,” Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 41, No. 10, pp.6291-6296(2002)
  2. A. Matsutani:“Comparison between modern violin bridge and baroque violin bridge by photoelastic observation and frequency analysis,” Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 43, No. 5A, pp. 2754-2755(2004)

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