弱小メーカーのとるべき戦略を考え抜く幸運に恵まれました。(後編)モレキュラー・インプリンツ・インク 溝上裕夫
ナノインプリントへの期待
聞き手:では最後に,現在代表をなさっているMolecular Imprints社についてお話をお伺いできればと思います。溝上:Molecular Imprints社は,アメリカのテキサス州オースチンに本社を置くナノインプリント装置メーカーです。先月のO plus E 9月号の特集記事で紹介させてもらいましたHDD用のナノインプリント装置などを作っています。
ナノインプリントを微細加工として考えた場合,半導体のエンジニアのほとんどがまず考えるのは「欠陥」の問題,つまり歩留まりです。「ナノインプリントは欠陥の問題」が致命的だ」と決めつけて,入り口で拒絶してしまいます。しかしわれわれの技術は,従来のナノインプリントとはまったく別物です。
トラウマのように(笑),頭の中にこびりついているコンタクト露光時代の半導体製造における欠陥は,マスクとウエハーが接することによってできる傷により発生します。しかし,われわれのナノインプリント技術では,マスクとウエハーがレジストを挟んで浮いたような状態で接するため,これまでのような欠陥は発生しないのです。
これは,従来技術のブレークスルーとなることは間違いありません。新しい未完成の技術ですから課題はありますが,非常に有望な技術だと思っています。私は,アメリカ人の発想に日本の優秀な技術者が協力すれば実用化にもって行けると考えています。
新しい画期的な技術というのは,その可能性が読める人と,読めない人がいますが,先が読めないからといって必ずしも失敗するとは限りません。また,逆に先を読みすぎて臆病になりチャンスを逃すということもあります。技術者の予測能力は,発明能力に匹敵するほど重要です。私は若いころ,電子ビームの将来性,X線露光の可能性,SOS(Silicon on Sapphire)の予測などは,早々に正しく予想できた冴えた時期がありました。それで弱小メーカーの貴重な開発資源を有効に使うことができたわけですが,今はまったく明晰ではなくなり,予測能力はありません(笑)。それは若い鋭い技術者にお願いしています。 ナノインプリント技術が成功するかどうかは,いろいろと見えてきた課題をこれからどのように解決していくかということにかかっていますので,日本のエンジニアの実力を発揮するよい場所だと考えています。そういう意味で,現在アメリカと日本の優秀なエンジニアが協力して開発に取り組んでいますから,これから非常に楽しみです。
聞き手:日本の半導体産業は現在非常に厳しい状況にあると思いますが,次世代技術であるナノインプリントのお話をお聞きし,何か希望の光が差してきたような気がします。前編・後編と二カ月にわたり興味深いお話をありがとうございました。 (後編おわり)