特別編(上) 講演 光による人類の未来への貢献光産業創成大学院大学/浜松ホトニクス(株) 晝馬輝夫
福音書
日本の産業がアメリカなどに負けてしまうのは,1つには根底にある精神的なもののせいではないかと思います。アメリカ人などでもきちんとした考え方をしている人は,バイブルを読んでいます。そしてキリスト教を信じている。そのキリスト教のバイブルの中に,福音書というのがあります。これは日本語でも出ていますが,私の先生でこれを読めと言われる人がおりまして,私があるとき「会社は何のために存在するのか」という問いに対して,「正しいことをちゃんとやることが会社の存在目的だ,だから会社というのは永遠に存在すべきなんだ」というようなことを生意気にも三十四・五の小僧っ子が言ったわけですね。そしたら帰りにその先生に捕まってしまいまして,「お前な,“永遠の真理とは”,“永遠の存在とは”,“永遠の繁栄とは”ということを言うのなら福音書でも読んでから言え。それが分からないうちに,“永遠に”なんて言うな」ということを言われたのです。ものすごい剣幕で言われたもので,塚本虎二さんの翻訳した岩波文庫の福音書を数百円で買ってきてすぐに読んでみましたが,ちんぷんかんぷんで分からないのです。「冗談じゃない,こんなおとぎ話のようなもの信用できるか」と(笑)。しかし,それを読んでいかないことには,「おまえ,“光が何であるか”,なんておこがましいことを言うなよ」ということになる。ですから,そのようなことで福音書を読んだわけですが,外国に行って私がいろいろな人と話すと,福音書を読んでいることの端がちらちらと口の端に出てくる。すると,途端に相手方の態度が変わる。「そうか,お前も福音書を読んでいるのか」というようなことで,それまでケンもホロロで,まともに相手にしてくれなかったような人が,こちらのインチキ英語を一生懸命聞いてくださる。「お前,その英語,そこ違うぜ」なんてアドバイスをくれる。そして,そういうなかから本当の友達が出てくる。
アメリカ人と一緒に仕事をするようなことになりまして,彼らの極意というのが分かったのですが,それは簡単なんですね。福音書のなかに書いてありますけれど,要するに神の存在を,絶対的に信じろと。信じると同時に,「それは何よりも大事なもので何よりも値打ちがあるのだ」と思いこむ。そういう風になったら,その神様になんでも頼んでみる,そうするとちゃんと教えてくれる。これは非常に簡単なことです。
それで,「よし,自分もそうなってみよう」と40年読んでますけれど,いまだに,「こんなことあり得るかよ」というようなところがありまして(笑),どうも日本人の味噌汁と米の飯では,「“アーメン”は入ってこないのか」という気がします(笑)。ですけれども,その代わりに絶対真理,つまり世界に通じる価値観というのは何であるかというのを探し求めなければならないと思います。
ということで,「新しいものを見つけたけれども方向が悪い」というのでは具合が悪い。だから外国のまねをしているというのは非常に楽ではあります。それは,悪い方向に進んだ奴はすでに滅びており,残っているのは善い奴だからということです。日本人は,一番難しいところを真似することでしのいできましたが,これはある意味賢明な選択だった。
しかし,中国が出てきた。給料は日本の1/10です。私どもでは中国に工場をもっており,向こうの大学に研究室をもったり,学生をもらったりして,そのうちから2~3人を日本に呼んで中央研究所で研修させて,論文ができれば,それを持って中国に帰るということを5~6年やっております。
そういうのを見ると中国人は日本人より頭が悪い,などということは絶対に言えない。日本人よりも不真面目である,などということも絶対に言えない。その彼らがアメリカの大学に大挙して行っています。昔は,アメリカの大学に行って日本人みたいな顔をしている人を見ると,「こんにちは」と声をかけると,「あら,日本の方ですか?」ということになっていろいろなところを紹介してくれたり,近所の日本食の店に一緒に行って酒を酌み交わしたりした,という経験がたくさんありました。しかし,最近では「こんにちは」と声を掛けると「Sorry, Iユm Chinese.」と返事が返ってきて,とても日本食を食べに行くようなことにはならない。そのぐらい中国の人々が向こうに行って真剣に勉強をしているわけです。しかも中国語というのは語順が英語の配列と同じですから,英語の上達も早い。ということで英会話は日本人よりはるかに上手です。そして彼らは,10年くらいの訓練を受けて,実践を経て,自分の新しい知恵なり,マーケットをもって中国に帰って行きます。
そのような中国に対して日本は競争しなくてはいけませんから,皆さんの孫子の代までに何か仕事を探してやろうと思えば,どうしても新しいものを自分で見つけて,それを開発するという能力を日本人が身につけなければダメなのです。