特別編(下)「良いものをつくるには,分からないことをひとつひとつ解き明かす必要がある」光産業創成大学院大学/浜松ホトニクス(株) 晝馬 輝夫
「裏の崖から飛び降りろ」
最初は下呂温泉まで逃げて,安い旅館で2 ~ 3 日温泉につかってたんだけど,金がかかってしょうがないっていうので「松山に行こうか」と。相棒の方はそのときに「俺はもう浜松に帰る」と言うので私だけ松山に来たんですが,だんだん手持ちの金も減ってくる。それで旅館の女中に「おい,どっかここいらで,うんと安くとまれる所はないか?」と聞いたら,「金山出石寺きんざんしゅっせきじというお寺が南の方に下った所の山のてっぺんにあって,米だけ持って行けば寝泊まりさせてくれる」と言う。そこの寺のいちばん偉い人というのが愛媛県の教育委員長をやっていて,普段は町にいて土日に寺に帰ってくるというんで,その人に身の振り方を相談して,うまいこと言えば銭のちょっともくれるかなって(笑)。まぁ,ともかくその坊さんが帰ってくるのを待って相談した。「会社がつぶれちゃって金が無い。もう死ぬしかないと思うのだけど,何かうまく助かる方法があるなら教えてほしい」と言ったところ,「お前,そんなもの助かる方法はない。死ぬしかないんじゃないか」と(笑)。「裏の崖から飛び降りろ。袖振り合うも多生の縁ってことで,ここは寺だから骸むくろをそこにほっぽらかしにしてカラスに食わせるようなことはせん。ちゃんと引き上げてお経をあげて,どこかに無縁仏として入れてやる」と言うのです。助かる方法を教えてくれと相談してるのに「こりゃひでぇ,とぼけてやがる」と(笑)。それで仕方なしに次の朝起きて裏の崖に行ってみたわけです。そしたら本当に切り立つような崖になっていて,下をのぞいてみたらゾッとした。実は私,高所恐怖症で(笑),それで部屋に帰ってよくよく考えてみると,「浜松に帰ったって,まさか誰も命まで取るとは言わんだろう」と。