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特別編(下)「良いものをつくるには,分からないことをひとつひとつ解き明かす必要がある」光産業創成大学院大学/浜松ホトニクス(株) 晝馬 輝夫

返品で増える注文

 当時の日本電気なんてのは不思議な会社だった。注文書に200 本とあるから200 本納めたら,100 本不良だと返してきた。次のときに不良代替ということで100 本入れて。するとどういうわけだか向こうは300 本の注文書をよこす。だから不良返品が来るにしたがって注文が増えちゃって(笑)。「不良返品もかわいそうだから,まぁそのくらいの金は出してやらぁ」という親心だったかもしれんけど,何か聞きに行くのも怖くて(笑)。
 松下電工の方は,あれはやっぱり大阪商人で,東京の商売との違いを肌で感じた。松下電工は,自分の所に注文が来ないときには「今月はいらん」と言う。それで注文が来て急に欲しくなると「今月中に何百本納めてくれ」とくる。「そんなこと言ったって今月はもういっぱいに生産が組んであるから」と断ろうとすると「よそのはキャンセルしろ。ウチの方は値段は倍でもいい」と言う。大阪商人は要らんときには本当に鼻にも引っかけんのに,欲しいときは「倍でもよこせ」(笑)。日本電気の方はそうじゃなくて,毎月きちんと注文書をよこす。どっちが楽だか分からんけれども。まぁでも,そんな物作っている会社,日本には浜松テレビ以外に無かったわけですから,うちが「嫌だよ」と言いさえすればね。

異常現象の起きない光電管

 まぁ,そういうことから始めて,そのうちにいろんなことをやろうということになってね。日立製作所も自分で光電管を作ってたんだけど,うちの方がモノがいいということで日立にも売りに行った。というのも,うちの製品は光電管のヒステリシスという異常現象を無くしたから。当時の光電管はみんな,出荷前に暗い所と明るい所,どちらに置いたかで感度が違っていた。ものによって感度にバラツキがあったんでは物理測光なんてとれもできないというので問題になっていた。でも,その原因というのは日立の技術誌の『日立評論』にちゃんと載っていた。日立に行った帰りに「これ帰りの汽車で読んでけ」って一冊くれたんで読んでいたら,そういう異常現象というのは光電管の中に絶縁された場所があって,そこに光が当たると電子が出てくる,そうするとそこに電位がたまり,電位がたまると収束条件が変わるから,その電位が一定になるまでは感度はどんどん変わる,というようなことがしっかり書いてある。光電面の中にある絶縁物の上に光電面をつくっちゃ駄目だということがすでに分かっていたんです。その当時の光電管は管の下の方に雲母の板があって,それに穴を開けて電極を突き刺した。マイカ留めといって,小さく切ったニッケルの板を雲母に挟んでおいて,それで光電面をつくっていた。だからマイカの上にアンチモンが飛ぶ。そこへセシウムを打ったりするもんで,当然そこには光電面ができちゃう。そこでマイカ留めを管の下の方からすこし前の方へ置けば下は金属で留めてるんだから光電面はできないはずだ,というのでやったら,見事一発でヒステリシスが無くなった。それで「浜テレの光電管は異常現象が無いぞ」となって,日立の資材のおっちゃんの所へ威張って持って行って「どうだ?」と言ったら,「そんなことくらいで威張ってたって駄目だ。威張りたければ光電子増倍管を作れ。光電子増倍管を作れたら“浜松テレビ様”と言ってやらぁ」なんて言うんで,コンチキショー! と思って会社に帰ってみんなにその話をしたら,「チクショー! ふざけてやがる!」って(笑)。

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