地球上に存在するすべてのエネルギーの原点は水の光分解ではないでしょうか。東京工芸大学 本多 健一
合同研究の難しさ
酸化チタン電極による水の光分解の研究は,開始した当初はまったく注目されませんでした。事実,酸化チタン電極による光分解の論文を1969年に学会で発表した時は,周囲からの反響はまったくなく,ごく普通の研究発表の1つにしか過ぎませんでした。しかし,それから4年後に起こった第1次オイルショックにより,一躍注目を集めるようになり,その結果,1974年元旦の朝日新聞の1面にトップ記事としてわれわれの研究が紹介されることになったのです。
こうして,酸化チタンによる水の光分解の研究が認知され,同時にエネルギー問題対策が各国で推し進められるようになると,さまざまな分野の研究者による合同シンポジウムやワークショップが開催されるになりました。
この合同シンポジウムやワークショップでは非常に面白い経験をさせてもらいました。どのような経験かといいますと,研究者同士で話がまったく噛み合わないのです。
合同ですから,われわれ化学屋を始めとして,物理屋,電気屋,応用物理屋が集まっているわけですが,各分野のテクニカルワードがお互いに通じないのです。その様子はあたかも母国語しか話せないアメリカ人と日本人が会話をしているような状態でした。
実際に例を挙げますと。例えば,水のなかに電極を入れて電池を作りますが,物理屋さんにとっては水を扱うことがタブーなのです。ですから,水を扱うような研究は考えたりしません。一方,われわれ化学屋の世界では水は研究の基本ですから,根本的なところから異なります。
それに輪を掛けるのが化学の世界におけるイオンの存在です。物理学においては電子の振る舞いで現象を捉えるということは行っても,イオンという考え方はしません。そのため,お互いの視点が異なり議論にならないのです。
これは,30年近く前に経験したことですが,現在でもこのようなギャップはまだ存在しています。