「日本人の持つ“心の襞”の多さは武器になる」スペクトラ・フィジックス(株) 遠矢 明伸
親身なサポートこそ日本のお家芸
聞き手:そんな時代に,日本の企業はどこに活路を見い出していくべきなのでしょうか?遠矢:難しいテーマだと思います。できた製品を1個抜き出して「これが日本製であるから世界で売れるんだ」というようには今後は行かないと思います。日本と同じ品質管理の手法を,今ものすごい勢いでアジアの国々は取り入れています。日本もビジネスとしてノウハウを輸出しています。ですから,アジア諸国の労働者の意識や能力が上がれば,もう日本と変わらなくなりますね。
製品単体で売れるものであれば,今後,日本はアジア圏と戦うのは難しくなるでしょう。そういうコモディティというか,コンポーネントと呼ばれる製品でも,実はサポートを必要としています。あるいはコンサルティングが必要です。一緒にソリューションを考えるということもあります。そういう総合力では,日本はまだまだ強いと思います。ヨーロッパやアメリカでも,そうしたことを標ぼうしている国は確かにあります。「ソリューションプロバイダー」という言葉は,もともと向こうの言葉じゃないですか。けれども,本当に親身になってサポートしてくれるのは日本独自の国民性だと思います。ビジネスの世界では,そういう国民性が真の意味で強いといえます。それを生かせるようなマーケットアプリケーションや製品は必ずあると思います。特に医療系のアプリケーションや,「安ければ良い」というものではない製品。付加価値の高いものを標ぼうしていく必要があるのだとと思います。
同時に,そういうマーケティングにもっと自信を持って参入していけばよい。進んだ文化を持つ国では,どんどんそういうマーケットが広がっていくと思います。一方で,安ければすぐ飛び付くようなマーケット,すなわちデベロップメントマーケットは確かに広大だし,ダイナミックですけれど,それは誰かに任せた方がよいかもしれません。価格では競争しない。自分たちがじり貧になりますから。
あとはソフトウエアマーケットです。ソフトウエアとは,複雑な心の襞(ひだ)を持った人の要求に応えるものだと思っています。ソフトは欧米が強く,日本には開発する力があまりないといわれていますが,ソフト開発とは心の襞(ひだ)を見極める力なのです。必要とされるものを探し出す力が必要とされます。日本にはまだそこを開発していく余地があると思っています。
聞き手:ソフトの話に関してですが,私はiPhoneやiPadなどが好きで,常々,そのユーザーインターフェースのできに感心しています。日本人の想像を超えて「え? こんな動きするの」みたいな感じで。その昔,同じく米Apple社が出したMacintoshでも同じように驚いた覚えがあります。こういう部分は,なかなか日本人では追い付けないと感じています。
遠矢:それはもう,人種の違いと言いますか。考え方の構造が違いますから,そこに真っ向から挑んでも無理だと思います。ですから,日本版のOSを出すような大それたことはしてはいけないかなと(笑)。無理だと思います。
ただ,例えばガジェットなどの使い勝手を考えたカスタマーフレンドリー,あるいはカスタマーオリエンテッドなハードウエアやソフトウエアは,圧倒的に日本のものが多いと思います。それこそ,皆さん「ガラケー」と言っていますけど携帯電話が持っている機能は,もうほとんど今のスマートフォンと変わらないぐらいですから。
われわれの持っている襞(ひだ)の多さというのは,世界市場でそれなりの力を出せるのではないかと思います。ただし,ビジネス展開が得意じゃない。ソニーの盛田さんのようなコーディネーターとかオーガナイザーといえる人が必要でしょうね。