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「日本人の持つ“心の襞”の多さは武器になる」スペクトラ・フィジックス(株) 遠矢 明伸

確実に「今」は変わっていく

遠矢:実際に自分が行きたいと思ったところに行けなかった過去がありますからね。やりたいと思ったことはいろいろありました。例えば天文学者とか。ただ,今振り返ると,現実的なマイルストーンは仕事や近未来的な生きる道に対して設定しても,将来像はあまり決め付けない方がよいと思いました。だいぶたってから,「あの道で結構幸せだったな」とか,「よい働きをして,自分なりによく頑張ってできた」という感想を持てばよいのではないでしょうか。中には会社や組織のトップになる人もいます。私の嫌いな政治家になる人もいるでしょう(笑)。だけど結局は,与えられたチャンスの中でどのくらい世の中に貢献できるかがその人の価値であって,金持ちになって何万人を救ったかとか,そういう世界ではないような気がします。

聞き手:今の若い技術者に対して,何か一言いただけないでしょうか。

遠矢:かっこいいことを言いたいのですけど,あまり自分のことを考えると言えないなとも思います。私も若いときは何も考えていませんでしたから(笑)。ただ,息子にもよく言うのですが,あまり今の状態を固定して考えない気持ちが大事だと思います。必ず「今」というものは変わっていきますからね。つらいことがあっても,厳しい状況でも,それが永遠に続くわけではありません。嫌な上司がいたり,嫌な教師がいたり,嫌な先輩がいたりしても,必ず状況は変わっていきます。そういう気持ちで安心感を持って,焦らない方がいいと思います。
 私も30歳のころ,研究職からビジネスの世界に飛び込みました。これは,ものすごく勇気のいることでした。何をスタートするにも「遅すぎる」ということはないと思っています。焦る必要はありません。寄り道をしてもいい。そうしたことは必ず人生のよいレファレンスとなって自分の身に戻ってきます。「人生は40歳から」ぐらいの感じでよいのではないでしょうか。
それと,友達と飲んで話して言葉に出して気持ちをシェアしていくのが大事です。親や教師,先輩には言いにくいじゃないですか。だから友達と話せばよいのです。

聞き手:「若い人の間にはコミュニケーションがない」という声もありますが,今は携帯電話やネットのコミュニティーなどいろいろありますよね。実はそういうコミュニケーションも,彼らなりのやり方だと思います。

遠矢:われわれ古いオヤジが見ると,「下を向いて日がな一日何をしているんだ」と思いますが,あれもまあ会話をしているのでしょうね。それも一つの通信手段でしょうから。ただ,それだけに依存してしまうと偏ってしまいますから,バランスを取っていく必要があるでしょうね。でも,自然に人はバランスを取ろうとする気持ちがあるから,行き過ぎると「何か変だぞ」と思い直しますね。だからそれを黙って見ていればいいのかなと思います。あまりギャーギャー言っても,「黙れ,オヤジ」みたいな感じで言われますしね(笑)。

聞き手:若い人たちを自分たちの固定観念で見ちゃダメだということですね。生活習慣などが本当にわれわれと違うので理解しがたいところが多くあるのですが,彼らは彼らでちゃんとしているところもあるので,任せられるところは任せていった方がいいんだな,という気が最近してきました。

遠矢:そうですね。彼らも逆にわれわれをそういう目で見ています。「ちょっとこれは勝てないなあ」とか「まねできないぞ」とか。それが,電車が動かなくても会社に行く態度であったり(笑)。お互いに興味の対象として見ていますので,どっちがマルでどっちがバツということはないですからね。柔らかい態度というか,気持ちでいることが大事だと思います。

聞き手:本日は長時間,貴重なお話を聞かせていただいて,ありがとうございました。

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