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世界の耳目が日本に集まっているこの時期に,日本は何を発信できるのか(株)グローバルプラン 岡村 治男

英会話では中身が大切

聞き手:日本人は,それほど交渉が得意とはいえない気がします。英語をネイティブ並みに自由にあやつれる人も多くはありません。国際会議のような交渉の場では,普通の人は恐れの方が先行してしまう気がします。そうまでしてかかわってこられた標準化というものに対して,岡村さんはきっとさまざまな思いをお持ちと思うのですが。

岡村:確かにありますね。一言で言いますと,今まさにグローバルな時代になって,技術に限らず,さまざまな世界標準を長期的な国益をよく議論しながらちゃんと押さえていかなければならないと思うわけですが,まだそうできていないのかも知れません。日本という国を外から客観的に見て,各企業のビジネスの方向だけでなく,世界の中の日本の方向を議論できる人をたくさん育てていかないと,本当に困ったことになるような気がします。

聞き手:NTTにはたくさんの研究者がいると思います。そういう方々は専門的に突きつめて研究・開発を進めていくイメージがあるのですが,一方で交渉ごとはあまり得意ではないように思えるのですが,どうなのでしょうか?

岡村:当時,NTTの研究所の技術レベルはそもそも高かったし幅もありました。光通信でも欧米の先を走っていたといえる時代ですから,交渉相手となる欧米人は下手な英語でも中身さえあればじっくり聞いてくれました。だから相手の技術的な提案意見に対しては,先行している立場から「そうじゃない,うちはこうやっている」とか,「そこはもう確かめた」というような主張ができて,むしろ英語能力などはあまり気になりませんでした。分からなければ繰り返し質問してくれるし,そういう中で徐々に慣れていったというところはあります。

聞き手:そして徐々に大舞台に出ていくわけですね。

岡村:そうです。年に2回,3回と同じ人たちに会って,信頼関係を作っていくのですね。「あいつの言うことは聞く必要がある」と思ってもらえるようになればいい。最初は光センサーから始めたのですが,そのうち光増幅器がでてきて,これはノーベル賞が出るかもしれないというくらいインパクトのあるデバイスですから,当然標準化も始まり,「じゃあ,そっちも」ということで光増幅器の標準化にもかかわることになりました。
 だいたい,息が長いのです。標準化というものは。1回や2回の会合で終わるものではなくて,10年くらい平気で続きます。だから,先端の研究を追及している人は,標準化の会合に年に何回も,しかもテーマを2つも3つも掛け持ちで参加することは物理的に無理になってしまうのですね。私は幸か不幸か,そういう急がされる研究テーマを持っていなかったので,ちょうど良かったともいえます。「そういう役割もありかな」と思って,自分で自分を十分納得させてやっていました。だからこそ,面白かったのでしょうね。

聞き手:専門の研究から標準化の仕事には徐々に移行していったのですか?

岡村:そうです。徐々にです。実験して,論文を書いて,ということはやっていましたが,同時に標準化にもかかわっていた時代がだいぶ長く続き,だんだん忙しくなって重みが増えていったという感じです。

聞き手:それまでは研究や開発にかかわられていたのですね。

岡村:はい,やっていました。当時は光増幅器が新しい技術だったので,これを使って,例えば光スペクトルアナライザーの新しい技術を開発し,当時としては世界記録となるデータが出たこともありました。論文を書いては投稿し,学会で発表し,という時代が何年か続いたのですが,標準化をその延長線上でやっていくのは決して悪い選択ではないと思ったのです。
岡村 治男(おかむら・はるお)

岡村 治男(おかむら・はるお)

NTT,NEC,米コーニングで光通信の研究とビジネスにたずさわり,1990年ごろから国際標準化に関わる。2003年,技術や考え方を世界標準にするお手伝いをする(株)グローバルプランを設立。光通信,地球環境,情報格差,国際人材育成などで積極的に発言している。また,2002年から有名なデミング博士の高弟である米国カリフォルニア州立大の吉田耕作名誉教授に師事して,人間尊重・協調・全体観によるサービス業の向上セミナーを展開。日本経済再生の強力なテコと考えている。最近は国際人材の素養について東京大学大学院非常勤講師や経済産業省の出前授業講師などにも従事。日本ITU協会顧問,コーニングアドバイザ,情報通信審議会専門委員,工学博士,経営学修士。

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