【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

やりたいことがまだ山ほどあります東海大学 名誉教授 佐々木 政子

必要なのは議論できる場と仲間

佐々木:わたしは,日本は科学技術立国であると考えています。だから,若い人たちには,純粋な好奇心や探究心を持続させて,強じんな意志を持って研究を進めてほしいと思っています。そこに社会的な評価が加わって,初めて成果になるということを分かってほしい。常に,「今やるべきことは何なのだろう」と考えなくてはいけませんよね。
 いつも学生たちには,研究の展開に必要なのは議論できる場と仲間ということを伝えています。多くのノーベル賞学者を輩出したベルリン学派はその好例の一つですね。さらに異分野の人たちと語り合うことだと。自分の分野だけに固執してはいけません。また最近は,人生は定年で終わりではなく,高齢化社会ではそこから先が長いから,大学生・院生の間にベターハーフを見つける努力をしなさいと言っています。

聞き手:ベターハーフとは,本当の意味でのベターハーフですか?

佐々木:そうです。「就活と婚活は先手必勝だよ」と(笑)。わたしの若いころは,女性は結婚なんかしたら仕事はできないと判断された時代ですから,結婚したらもうそこでおしまいでした。でも今の若い人には「支え合うようにしなさい」,「安定しなさい」,「楽しみを持ちなさい」と必ず言います。

聞き手:そういう意味では,今は大変恵まれていますよね。

佐々木:恵まれ過ぎかもしれません。考えることをしないで,その場が楽しければいい。その時その時を生きちゃうのですね。人生のスパンでものを考えてほしいです。

聞き手:国際化という点ではいかがですか?

佐々木:今はグローバル時代だから,やはり国際的に活躍しなくちゃダメですよね。わたしが若かった時は,外国に行ったら必ず一流の先生のところを訪ねることにしていました。一例として,MITでパーマネントプロフェッサーになっている高速度写真の発明者Harold Edgerton教授のところにお邪魔した時には,先生のお宅で「昼食を」ということになりました。昼食後,何と「後片付けは男がするもの」とおっしゃって80歳の先生が後片付けをされる。さらに,空港まで送ってくださり,荷物まで持っていただいたので,「私の方が若いから荷物を持ちます」と言ったら「いやいや,荷物は男が持つもの」と。国外出張は,研究面での勉強だけでなく,異文化を実感できることも利点の一つかもしれません。

聞き手:かっこいいですね(笑)。

佐々木: 今年は世界化学年(International Year of Chemistry:IYC 2011) ですので,IUPAC(International Union of Pure andApplied Chemistry)が優れた女性化学研究者・技術者(DistinguishedWomen in Chemistry/ChemicalEngineering)を世界から選ぶことになり,日本化学会の会長と,日本化学会の男女共同参画推進委員会の委員長をしているわたしとが推薦をした方が,アジアからただ1人の日本人として,23名の中に選ばれました。現在,男女共同参画推進などにもかかわっています。だけどまだ,光に関してもやりたいことが山ほどありますね。

聞き手:本日は本当にお忙しいところ,有意義なお話をたくさん聞かせていただき,ありがとうございました。
佐々木 政子(ささき・まさこ)

佐々木 政子(ささき・まさこ)

1961年,東京理科大学 理学部化学科卒業。同年,東京大学 生産技術研究所に文部技官として入所。1975年,東京大学 生産技術研究所 文部教官助手。1975年,東海大学 情報技術センター専任講師。1976年に東京大学にて工学博士号取得。1978年,東海大学 開発技術研究所助教授と同情報技術センター助教授・同工学部光学工学科助教授を兼任。1987年,東海大学 開発技術研究所教授と同大学院工学研究科を兼任。1997?2002年,東海大学総合科学技術研究所教授・所長付・同大学院工学研究科を兼任。1999?2002年,東海大学 総合研究機構研究奨励委員会委員長。2001?02年,日本光生物学協会会長。2003?07年,日本女性科学者の会会長。2003?07年,東海大学 特任待遇教授。2008年,東海大学名誉教授。現在に至る。専門分野は生命と環境にかかわる光科学。1994年度,東海大学松前賞,2005年度,東京理科大学博士会坊ちゃん賞,2007年度,第1回 日本光医学・光生物学会賞など,受賞多数。ほかに多くの審議会委員や学会理事などを勤める。

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