光が我らを導く果てまで ~光の導く交流が研究成果へつながる原動力に~横浜国立大学 理事(総務・研究担当)・副学長 國分 泰雄
研究の醍醐味とはその過程を愉しむこと
聞き手:ご専門の「応用光学」「量子光工学」を含めた光エレクトロニクス分野の醍醐味は,どこにあるとお考えになりますか。國分:“応用”です。“新たに知る”,“今まで不明であったことを突き詰めて解明する”ことを醍醐味とする素粒子物理や天文学などの分野に対して,光エレクトロニクス分野では複数の成熟した学問体系と技術体系との組み合わせで,新たな光デバイス,光ファイバーなどを創り出す“応用”にあると思います。光ファイバーの場合,素材を製造するガラスメーカーが半導体の材料を採用してファイバーを作製し,電磁波伝搬分野の技術者が中を通る光や電磁波の伝搬に携わるなど,従来の技術体系の融合で新たな“応用”が創出されました。こうした応用自体を目指す,あるいは応用されることを夢見て研究する過程に醍醐味を感じます。
以前読んだ何かの本に,「コンピューターは結果が最適化させるようにプログラミングされるが,人間は結果を最適化するのではなく最適化させる過程を愉しむことができる」との言葉があり,まさに研究とは成果を上げる過程,または努力する過程を愉しむことが醍醐味だと思うのです。研究成果だけを得たいのであれば,対価を払って手に入れればいいわけですから。これは研究者に限らず,いろいろな職業の方でも失敗して上司や先輩に叱られ,それを挽回するために次はどうすればよいかと悩み考えて努力することが仕事の醍醐味ではないでしょうか。それには,自分自身を信じてチャレンジする気持ちも必要です。
聞き手:國分先生がお考えになる,研究者が成長するために必要な資質とは何でしょうか。
國分:研究者は,専門分野の知識やスキルだけでなく人間力を備えなければ,なかなか成長は望めないと思います。研究では,人との交流を通じさまざまな検討を重ねることで,新たな着想やアイデア,技術やデバイスが生まれてくることも少なくないからです。
頭の中は常にいろいろなことに興味を持ったり,考えたり,いろいろな人と交流したりすることで新たな知識や情報を吸収するなどして活性化されるはずです。私は現職〔横浜国立大学理事(総務・研究担当)〕の関係で,他の教授の研究内容を把握しておく必要があり,経済や心理学など自身の専門分野以外の話を聴く機会も少なくありません。こうした機会を通じて,何かのきっかけで頭の中で化学反応が起きるようにして新たなアイデアが生まれることもあります。こうした経験を基に,本大学外からも各分野で活躍する教授を招いてお話いただく,あるいはいろいろな世代の人たちが集って各自の研究テーマに限らずディスカッションする機会を作ることが,大学での研究の活性化に必要との結論に至りました。
聞き手:これから光学・光エレクトロニクス分野を志す若手研究者・技術者,学生に向けてメッセージをお願いします。
國分:この分野を追究するには,光学や半導体物性,誘電体や結晶などの材料物理から半導体工学,ときには材料力学なども必要になります。このような広範な分野の上に成立する学問であるため,自ずと学ぶ範囲も広くなります。だからこそ,これまで新しい組み合わせで新たな展開を切り開くことができましたし,今後も独創的な工夫と努力,異分野の学術体系の組み合わせ次第で,新たな展開を切り開ける余地はまだまだあり,新発明の可能性はあると思います。光エレクトロニクスの研究では,以前“光は光ファイバー通信などの信号伝送”,“エレクトロニクスは信号処理や演算”とすみ分けされてきた面もありますが,今後はその利用について再検討するなど新たな方向性を模索することも必要でしょう。
これは社会全般にも言えることですが,次世代の人材を育成することに注力してほしいと思います。世界的に産業・経済状況から国際問題に至るまで閉塞感に陥っている現代では,若い世代の人たちが将来に希望を持てなくなったと言われますが,そのような時代だからこそ,将来を担う若い人たちに妙な諦めを抱かせないよう,現代を担う大人が背筋を伸ばして前を向く姿を示すことが大事だと思います。
國分 泰雄(こくぶん・やすお)
1975年横浜国立大学工学部電気工学科(工学士)卒業。1977年東京工業大学理工学研究科電気工学科修士課程修了。1980年東京工業大学総合理工学研究科電子システム博士課程修了。同年東京工業大学精密工学研究所助手。1983年横浜国立大学工学部助教授。1984年米AT&Tベル研究所客員研究員(1985年10月まで)。1995年横浜国立大学工学部教授昇任。1996年(財)神奈川科学技術アカデミー「3次元マイクロフォトニクスプロジェクト」プロジェクトリーダー併任(1999年3月まで)。2001年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授。2006年横浜国立大学大学院工学研究院長(工学府長,工学部長兼務)(2009年3月まで)。2009年横浜国立大学理事(総務・研究担当)・副学長(現在に至る)。●専門のご研究内容:マイクロリング共振器と呼ぶ半径5?20μm程度の微小デバイスを集積化し,大規模集積化可能な波長フィルター,波長選択スイッチや符号化回路などの光集積デバイスを実現。半導体量子井戸を用いた位相変調導波路による高速・低電圧波長ルーティング回路や,波長チャネルを用いる高速信号処理回路の研究を実施。光ファイバーの伝送容量を飛躍的に拡大する空間多重/モード多重伝送用として,マルチコアファイバーとモード合分波器の研究も実施。
●2004年第26回応用物理学会論文賞(解説論文賞)。2005年第3回国際コミュニケーション基金優秀研究賞。同年MOC Award。2008年第2回応用物理学会フェロー表彰「高屈折率差光導波路を用いた光集積デバイスの研究」。2010年IEEE FellowElevation,Citation:for contributions to integrated photonic devices他表彰・受賞。