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科学の面白さと光触媒の効用を伝導東京理科大学 学長 藤嶋 昭

光触媒研究のさらなる発展に向けて

聞き手:藤嶋学長が長年,取り組まれてきた光触媒の研究は,世界中から注目され,現在もさらに関心が高まっているようです。

藤嶋:光触媒の研究では,光合成の反応のように酸化チタンに光を当てることで生じる水の分解作用からスタートし,さらにそこから酸素や水素が発生することを発見しました。その研究内容を論文にまとめて,『Nature』に投稿したのが1972年です。
 その41年前の論文が今もなお多くの研究者の皆さんに引用されていることに,私自身,非常に驚いています。特に,近年では光触媒の研究に携わっている方々から多くのオリジナル論文が投稿され,昨年2012年の1年間には私の論文を引用したオリジナル論文数は約1,000となり,累計では7,000報にも上ります。これは,光触媒の研究に携わる研究者がかなり増えているといえるでしょう。41年前に投稿した論文の引用数が増加傾向で推移していることは,とても不思議な気持ちですが,その一方では光触媒の研究が世界中の多くの研究者から注目していただいていることに喜びを感じています。そうした意味でも,光触媒に携わっている方々が懸命に研究・開発に取り組まれていることに大変感謝しています。光触媒を研究する人が増加傾向にあることを踏まえると,今後はさらに光触媒の用途は広がり,需要ももっと高まっていくことでしょう。

聞き手:そうした中,今年(2013年)4月より理科大の野田キャンパス(千葉・野田)内に産官学の連携で光触媒を研究する拠点「光触媒国際研究センター」が開設されています。

藤嶋:現在,光触媒国際研究センターでは私がセンター長を務め,世界中から優秀な人材に参加してもらう予定です。このセンターの開設はそもそも,もっと幅広く光触媒を利用促進することを目的に,経済産業省「技術の橋渡し拠点」整備事業(技術の橋かけプロジェクト)に応募したことがきっかけで実現しています。これは,光触媒技術を利用した産業に対する国からの期待の現れと解釈し,いい意味で自分自身にプレッシャーをかけています。  現行の実施体制は,光触媒技術の用途別にセルクリーニング,人工光合成,環境浄化の3つのグループを中心に,神奈川科学技術アカデミーや大手企業・団体で構成されています。延べ床面積約2,600m2の地上4階建ての建物で,建物の外壁,ガラス,タイル,ドラフト,実験台などにも光触媒を使用しています。また,4階の一部には養液栽培(土を使わずに肥料を水に溶かした養液=培養液による作物の栽培法)のスペースを設け,光触媒を使って養液を浄化し循環させながら薬草などを栽培します。そのほかには,擬似太陽光を使って測定しデータ取りをするための装置も設置しています。
 最大100人程度の研究者や関係者が利用し,また連携する企業や団体の研究スペースなども設けています。今後は,このセンターを拠点に光触媒のさらなる発展に向けて,産官学で連携を図りながら光触媒技術を利用した事業化,あるいは産業化を実現できるように研究を進めていきたいと考えています。

聞き手:最近の光触媒の研究に関するトピックスについてお話を伺わせてください。

藤嶋:それは今,関心が高まり注目されている「可視光化」です。これは,蛍光灯よりも光の弱いタングステン灯の可視光によって,表面に酸化チタンをコーティングした室内の壁紙などに,汚れ除去など光触媒の効果が得られるもので,現在実用化に向けて順調に進めています。この取り組みは,私の後継者である東京大学大学院の橋本和仁教授が,昨年2012年までの5年間進めてきたNEDOの「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」で実施したものです。このプロジェクトの成果として,確立した技術を活かした製品が市場に出回っています。
 また,市場に出回っている光触媒の“まがいもの”商品を排除する目的で,光触媒の標準化を急ピッチで整備しているところです。標準化については着手してから,かれこれ10年近くになります。現在,JIS(日本工業規格),ISO(国際標準化機構)も2013年でほぼすべて確定していく方向で進めています。JISとISOでは,あくまでも光触媒としての効果を測定する方法を基準化しているのであり,まだ商品規格としては確立していません。現在は,企業や団体が対象の製品やサービスがこの規定に準拠しているかを確認するために,専用測定器を有する機関に依頼し認証を受けている状況です。これによって,光触媒の効果がエビデンスで裏づけされ,効果の得られない製品やサービスは市場から排除されていくとみています。 <次ページへ続く>
藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

1942年東京都生まれ。1966年横浜国立大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年神奈川大学工学部講師。1975年東京大学工学部講師。1978年東京大学工学部助教授。1986年東京大学工学部教授。1995年東京大学大学院工学系研究科教授。2003年~神奈川科学技術アカデミー 理事長。2003年JR東海機能材料研究所所長。2003年東京大学名誉教授。2005年東京大学特別栄誉教授。2006年日本化学会会長。2006年神奈川大学理事。2008年科学技術振興機構中国センター長。2010年東京理科大学長。
●研究分野:光電気化学,光触媒,機能材料
●1983年朝日賞,1998年井上春成賞,2000年日本化学会賞,2003年紫綬褒章,2004年日本国際賞,2004年日本学士院賞,2004年川崎市民栄誉賞,2006年恩賜発明賞,2006年神奈川文化賞,2010年川崎市文化賞,2010年文化功労者,2011年The Luigi Galvani Medal,2012年トムソン・ロイター引用栄誉賞,トリノ大学より名誉博士の称号授与

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