【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

科学の面白さと光触媒の効用を伝導東京理科大学 学長 藤嶋 昭

柔軟な発想に基づく教育者としての活動

聞き手:最近最もご関心があるのが童話とのことですが,それは科学を題材にした童話をご執筆されるということですか。

藤嶋:そうです。今は,私自身が童話について勉強するために,童話の本を多読しながら,原稿に少しずつまとめているなどしています。特に私が関心を持っている題材は,たとえばセミです。米国には素数を知る「素数ゼミ」が生息し,13年,17年などの周期で地上に出現しているのです。ただし,そうした周期は気候変動などの外的要因で狂うこともあります。こうした内容が書かれている本が,『素数ゼミの謎』(吉村仁著;文藝春秋発刊)です。これは,本当に面白い本です。
 私の一番の疑問点は,日本の場合セミはどうして幼虫の時期まで地中に5年~7年間生息し,8月という時期を察知して地上に出て成虫となるのか――ということです。なぜ5年,7年という時間の感覚を持ち,どうして8月を知り得るのか――これが私にとって不思議なことでした。そこで,それを突き止めるためにあらゆるセミに関する本をオーダーして,セミについて猛勉強しました。その結果,私に1つの仮説が閃いたのです。
セミは,幼虫の時に木の幹から転がり落ちるらしいのですが,地面に落下して地中に潜り木の根に当たると,その根に沿って栄養分となる樹液を吸いながら,その先端に向かって深く潜っていくとの説です。つまり,最も樹液を吸いやすい環境を確保するため,根をつたってその先端まで潜って生息するのです。そこで何回も脱皮し樹液から温度の変化を感じることで1年の周期を知り,7年目の8月を迎えたことを察知すると,「7回目の樹液が熱くなってきたなぁ。では,そろそろ地上に行こう!」と,その場所から根をつたうことなくほぼ真上の地上に向かって這い上がってくる――これが私の仮説です。木々のある公園を訪れると,地面にポチポチと小さな穴が開いていますが,それがセミの幼虫の通り穴です。
 セミの幼虫が根の先端で生息する仮説を前提に考えると,セミの幼虫が這い出てきた穴のほぼ直下の位置まで,その付近の木の根は伸びていると想定されます。つまり,その通り穴の分布からその付近の木の根がどこまで伸びているか,その位置を知ることができると考えられます。したがって,幼虫が生息する地中の深さは一定ではないという論文の統計データは,対象となる木の大きさや根の深さに応じて異なるとの見解で説明がつくわけです。これが,私の仮説であり自説です。このような自説はさまざまな文献を当たってみても記述されていないことですが,栄養摂取として根の樹液を吸うために吸いやすい根の先端まで潜ること,樹液を通じて温度の変化を体感できること,それから7年後にその場所からほぼ真っ直ぐ地上に向かって這い上がってくること――の自説を総じて考察すると,真相はこれしかないと思っています(笑)。書籍『セミの一生』(佐藤有恒,橋本洽二著;あかね書房発刊)には,脱皮時の写真が掲載されていますが,羽の色が2~3時間で変化していくプロセスは大変美しく幻想的です。自然の神秘には,本当に驚かされます。もう,網を持ってセミ捕りなどできませんよ(笑)。

聞き手:藤嶋学長は,これまでも科学を題材にした本を中心にさまざまな内容の本をご執筆またはご監修されていますが,最近ではどのような本を手掛けておられますか。

藤嶋:昨年の2012年7月には,私が監修した書籍『新しい科学の話』(藤嶋昭監修;東京書籍発刊)が発行されました。これは,小学1年生~6年生の学年別に1巻ごとに編纂された全6巻をセット化した本で,“シリーズ朝の読書の本だな”の1つとなっています。現在,小学校で始業時間前の“朝の読書”の時間があり,その時間で少しでも理科に親しんでもらえればと考えて監修しています。
 直近では,2013年4月に出版された書籍『小さな疑問から大きな発見へ! 知的世界が広がる 世の中のふしぎ400』(藤嶋昭監修,ナツメ社こどもブックス発刊)があります。この本では,世の中の不思議について400項目を選び出しそれぞれ分かりやすく解説しています。400項目には,例えば「橋には入口と出口があるか」などがあります。これは,道がどこを起点にしているかによって起点が入口,終点は出口と設定され,起点は橋の名称が漢字,出口はひらがなで表記され,しかもひらがな表記は「あさくさばし」ではなく「あさくさはし」となります。もちろん,400項目の中には「空がなぜ青いか」も含まれています(笑)。 <次ページへ続く>
藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

1942年東京都生まれ。1966年横浜国立大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年神奈川大学工学部講師。1975年東京大学工学部講師。1978年東京大学工学部助教授。1986年東京大学工学部教授。1995年東京大学大学院工学系研究科教授。2003年~神奈川科学技術アカデミー 理事長。2003年JR東海機能材料研究所所長。2003年東京大学名誉教授。2005年東京大学特別栄誉教授。2006年日本化学会会長。2006年神奈川大学理事。2008年科学技術振興機構中国センター長。2010年東京理科大学長。
●研究分野:光電気化学,光触媒,機能材料
●1983年朝日賞,1998年井上春成賞,2000年日本化学会賞,2003年紫綬褒章,2004年日本国際賞,2004年日本学士院賞,2004年川崎市民栄誉賞,2006年恩賜発明賞,2006年神奈川文化賞,2010年川崎市文化賞,2010年文化功労者,2011年The Luigi Galvani Medal,2012年トムソン・ロイター引用栄誉賞,トリノ大学より名誉博士の称号授与

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