【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

人より早く始めることでエキスパートとしてさらに上位の仕事を目指すNPO法人 三次元工学会 会員 林 洋一

三次元測定は将来性のある技術

聞き手:今後の三次元測定や3Dプリンターの展望についてお聞かせください。

:私は1回の測定で一定の表面範囲の形状データが得られる光学センサーで,対象物の全体形状を数値化してコンピューターへ読み込む装置の開発を1984年から2010年まで続けました。
 三次元測定に関わり始めた1984年当時は,国内外から多くの非接触測定に関する論文が発表されましたが,まず思い知らされたのは「論文ではシステムはできない」ということでした。
 製品化を考えた場合精度を優先して考慮しますが,論文はこのような光学レイアウトが達成できたらこの座標計算式が成り立ちますとは言っていても,その様なレイアウトを実現できない。従って座標計算式を作り直さなければならない。それに合わせて非常に複雑な校正ソフトウエアの開発もしなければならない。  これは,海外も同じ事情だったと思われ,製品が発表され始めたのは1990年を超えてからで,最初はレーザーのポイント式や光切断式が主流でした。
 オプトンは面測定できるセンサーを,日本で一番早く製品化したと思いますが,その後同種のセンサーがドイツ,イスラエルからも販売されるようになり,非接触測定機のブームになりました。曲面部品の多い自動車会社が何台も購入してクレイモデル測定,車体検査,板金検査,部品検査への適用を目指しました。
 今はブームが去りましたが,将来性のある技術だと思います。
 基本となる光学センサーですが,光学センサーの完成度はかなり良いところまで行っていると思います。価格には大きな開きがありますが,ポイントは光学センサーと共に販売されるアプリケーションソフトの豊富さと質であると思います。光学センサーだけでは何もできないので,ユーザーは業務に使えるソフトとの合算で投資効果を見積もることになりますから。
 また,用途を広げるには表面性状にタフなセンサーを開発する必要があります。例えば光沢面,図柄のある面ではデータが抜けたり,ノイズが発生しますが,光学センサーで回避するか後処理で穴埋めやノイズ除去を行うソフトを開発することが必要になります。
 光学センサーを機械や手動で移動して複数方向から測定した場合,各測定時のセンサー位置と姿勢を正確に知る必要があります。機械の場合は動きの量を検知するエンコーダーを使いますが,手動の場合はワーク上のマーカーを使うか,取られた形状データの類似性からソフトによる貼り合わせを行います。どの方法にも一長一短があります。今後は光学センサーの位置や姿勢の確定に狭域のGPS,加速度センサー,角速度センサー,ジャイロ等を使うことの検討が必要だと考えています。
 また,現状では多方向から取られた形状データのつなぎに時間がかかる,あるいはつなぎの精度が出ないことが問題となっています。また割と単純な形であっても全体を測定するにはかなりの数のパッチが必要ですが,スマートな解決策が待たれるところです。
 さらに,測定機群のネットワーク化も推進していくべきです。非接触測定機は自由曲面の測定, 全数チェックに向いていますが,ネットワーク化を推進することにより測定機室や工場を縦断して,部品から製品までのトレースを行うことができるようになります。合わせて全数チェックのさらなる高速化と低価格化をすることで,形状の経時変化を観測して工程パラメータの修正を行うことができ,生産性や歩留まりの向上なども期待できます。すでにヨーロッパを中心に,接触式測定機,非接触測定機,画像解析装置など多種類の測定機を扱うグループ化が進んでいます。ただ,現状では光学センサーは高価なため,接触式測定機の役目まで期待されていますが,得意な測定に特化するのが良いのかもしれません。
 あと,CCDカメラの高解像度と低価格化が進むことで,ステレオ視が盛んになるのではと考えています。用途としてはロボットの目として,AI化した脳(コンピューター)との連携が考えられます。 <次ページへ続く>
林 洋一(はやし・よういち)

林 洋一(はやし・よういち)

1950年 北海道札幌市出身
1972年 北海道大学応用物理学科卒業
1972年 日本アビオニクス株式会社入社
1980年 株式会社三菱総合研究所入社
1990年 株式会社オプトン入社
2010年 株式会社オプトン退社
●研究分野
非接触三次元形状測定

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