人より早く始めることでエキスパートとしてさらに上位の仕事を目指すNPO法人 三次元工学会 会員 林 洋一
さらなる普及には新分野の開拓も必要
林:自動車業界を筆頭としていろいろな業種で非接触測定を有効利用するための様々な試みがなされましたが,必ずしも成功しているとは言えない状況です。自由曲面が多く,高密度のデータを必要とするクレイモデルの測定が成功例の1つですが,ほとんどの場合は購入された会社の中でどのような試みが行われているか,明らかにされていません。
問題点として,思ったより測定に時間がかかるという話を聞きます。単純と思われるような形状でも,実際にはいろいろな方向を向いた面の集合であり,面直方向から測定するには何度も測定しなければならないのです。またフォトグラメトリーのタイプでは事前のセットアップに時間がかかります。 今望まれているのは測定角度が大きく,測定深度の大きい光学センサーの開発,操作員に負担の少ない自動測定の完成です。全周周りの形状が高速あるいは無人で得られるようになれば,新しい用途へのリターンマッチが可能だと思います。特に金型,板金,溶接部品は装置が低価格化することでさらなる需要が見込めると思います。
非接触三次元測定の普及を考えた時に,測定機が不完全なことが理由なのか,それとも形状データに使い道がないのかと悩んだことがあります。まず新業種や新規分野の用途開拓が必要です。既存の分野には長年培ってきた測定・検査方法が確立しています。それはスピーディーで安価で実績があります。このような分野では太刀打ちは難しい。例えばいくら優秀なものでも, 最近作られたCADがシェアを獲得するのは難しいのに似ています。新業種・新分野として考えられるのは,航空機産業,電気自動車,エコエネルギー発生装置などです。特に電気自動車は駆動系から熱の発生が少ないため,従来のように熱に強い板金を使う必要がなく,新しい素材の利用が考えられます。その際のいろいろな素材の整形の確認に測定機の活用が考えれます。
また特性をいかした分野の開拓も必要です。例えばステレオ視を活用したロボットの目です。周辺にある立体物の形状認識や物を持つ/運ぶ,機械などを操作することに非常に向いています。工場なら,加工ラインは無人でも,ラインに物を供給する,あるいは箱詰めにする単純な作業は人間が行っていますが,この作業の自動化などが考えられます。ロボットの目で形状測定を行い,CADデータと照合,重心位置を挟んで両側をつかむ,所定の場所に置くと言ったことが可能です。他にも災害現場で,周辺の立体物の形状を測定するし,全体が露出している立体を見つけ,取り除くと言ったことも可能になります。
光学センサーの認知度を上げ,いろいろな用途を考えるユーザーのコミュニティーを作ることも良いと思います。
コミュニティーの会員としてまず考えられるのは大学ですが,
- 光学レイアウト図,プロジェクター構成図,電気の接続図を公開する。
- 光学センサーの部品を単体で安価に供給する。
- 光学センサーの組み立てはユーザーに行ってもらう。
- 1.と3.を行う時間がなくてお金を持っているユーザーにはセンサー全体,プロジェクター等の単位でコミュニティーから購入してもらう。
- キャリブレーションソフトと治具をコミュニティーから購入してもらう。あるいはコミュニティーが所有するキャリブレーションセンターへ持ち込んで有償で校正してもらう。
- 形状データを加工するアプリケーションのアイデアを公募する。
- アイデアを元に商品イメージを作り,特定のユーザーが想定される場合は働きかけを行う。
- 商品化を行う場合はソフトウエアを制作する。アイデア提唱者,ソフトの開発者には規模に見合った賞金の支払いを行う。
合わせて,魅力あるアプリケーション作りも必要です。非接触測定は測定機を製作するだけでも,いろいろな専門家を必要とします。さらにその形状データを加工して利用するためにはさらに多くのソフトウエアを開発しなければなりません。
先に述べたコミュニティーと連動してアプリケーションの賞金付きの一般公募,完成したソフトウエアだけではなくアイデアのみも広く募集すべきです。
海外では,ドイツの州政府,大学,アウディ,スタインビヒラーがプロジェクトを組んでいます。日本の場合,いろいろな補助金が出されていますが,申請には詳細なアルゴリズムまで提示する必要があり,実現が確実視されているテーマしか通らない状況です。夢のあるA3用紙1枚の提案書が通るのが理想です。
3Dプリンターは三次元光造形(ステレオリソグラフィー)という名前で登場しました。1987年にはアメリカのUVP社(今の3Dシステムズ)がSLA-1の製品化を発表し,翌年には三菱商事がSOUPシステムを発表しました。確か発売当初は数千万であったと記憶しています。また,装置が高いだけではなくユーザーには,光硬化樹脂が高い,光硬化樹脂が外光により劣化する,出来上がりの製品が経年で変形するといった不満がありました。
しかし,型を作らずに試作品ができるメリットがあり,素材の研究も続けられてよりよい樹脂や材料が開発されています。
最近では,個人でも購入できる安価な3Dプリンターが売られており,医療モデルなど新しい業界や個人からいろいろな使用法が提案されています。
3Dプリンターへの入力データであるSTLは,よく使われるデータ形式で安い,あるいは無料のCADからも出力可能です。
もし,簡易版であれ個人で購入できるほど低価格な光学センサーを売り出すことができれば,一般ユーザーによって新しい活用法が生まれる可能性があります。
今は,穴の空いた形状データを加工するよりCADでデータを一から作ったほうが早いと言われていますが,全体形状が簡単に抜けがなく測定できる,あるいは形状データの不備をソフトで補完できるようになれば,測定機と3Dプリンターの組み合わせが有利となり,さらなる可能性が広がると思います。 <次ページへ続く>
林 洋一(はやし・よういち)
1950年 北海道札幌市出身1972年 北海道大学応用物理学科卒業
1972年 日本アビオニクス株式会社入社
1980年 株式会社三菱総合研究所入社
1990年 株式会社オプトン入社
2010年 株式会社オプトン退社
●研究分野
非接触三次元形状測定