辛辣な人との出会いや自分の失敗が自分の潜在能力を引き出してくれるニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学) 谷岡 健吉
8K医学応用もHARPでの医師とのつながりが原点
谷岡:今,うれしいことに,HARPは文部科学省が発行している「一家に1枚周期表」の,原子番号34のセレンの所に掲載されています。原理を発見して30年になりますが,今度,新しくニューヨーク州立大のストーニーブルックの医学部の客員教授に限られた期間就くことになりました。そこでは撮像管タイプではなく,固体HARPと言って,TFTとかCMOSの上に重ねられるようなHARPが開発されています。HARPはX線に対しても感度と解像度が高いわけですから,例えば乳がんの超早期発見に使う手法の研究が行われています。ナノテクノロジーを使った新しい固体HARPをTFTの上に乗せて,被曝量を抑えながら乳がんを正確に見つけるという仕組みです。今の8Kカメラは非常に感度不足ですから, このような新しいHARPを8K用のCMOSの上に積層すると,感度が一気に何十倍と上がるのではないかと期待しています。 8Kの医学応用などを進めているメディカル・イメージング・コンソーシアムでご一緒している医師の千葉敏雄先生とのお付き合いの原点もやはりHARP技術がかかわっています。千葉先生は胎児外科がご専門で,お母さんの子宮の中にいる胎児の病気を早期に見つけて手術をするのです。しかし内視鏡で手術するときに強い照明を当てると,羊水の温度が上がるし,まだしっかりと形成されていない胎児の網膜にどのようなダメージがあるか分からないので,なるべく弱い照明で撮れる技術がほしいと考えておられました。そのときにHARPで撮ったハイジャック事件報道の再放送の番組を見られて「これだ!」と思われ,技研に来られたのです。その後,千葉先生には「超高感度もいいけれども超高精細の8K技術も医療に応用されてはいかがですか」と提案しました。NHKで開発された先端イメージング技術の医学応用に力を入れた理由は,日本では医工連携と言いながら,あまりうまく機能していないのではと思ったからです。千葉先生も同じ意見で,やがて私のNHK退職後に千葉先生,オプトロニクス社の上野社長,谷岡らでメディカル・イメージング・コンソーシアムを設立することになりました。私は人の幸せにつながる医療に先端イメージング技術を活かしたい,またそれによって日本に新産業を創出できるのではないかと思ったからです。 <次ページへ続く>
谷岡 健吉(たにおか・けんきち)
1948年 高知県高知市生まれ 1966年 高知県立高知工業高校電気科卒業 1966年 NHK高知放送局入局 1976年 NHK放送技術研究所に異動 1989年 同研究所 映像デバイス研究部主任研究員 1994年 博士(工学)(東北大学) 1995年 イメージデバイス研究部 副部長 1997年 撮像デバイス 主任研究員 2000年 撮像デバイス部長 2004年 放送デバイス 部長(局長級) 2006年 放送技術研究所 所長(理事待遇) 2008年 定年退職 2008年~2015年 高知工科大学客員教授 2011年~東京電機大学客員教授(工学部) 2015年 ニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学)●主な活動・受賞歴等
1982年 鈴木記念賞「Se系光導電形撮像管のハイライト残像とその改善」 1983年 放送文化基金賞「高性能カメラの開発」 1990年 放送文化基金賞「高感度・高画質HARP撮像管の開発」 1991年 市村学術賞 功績賞「超高感度・高画質撮像管の開発と実用化」 1991年 丹羽高柳賞 論文賞「アバランシェ増倍 a-Se光導電膜を用いた高感度 HARP撮像管」 1991年 SMPTE Journal Award 「High Sensitivity HDTV Camera Tubewith a HARP Target」 1993年 高柳記念奨励賞「ハイビジョン用高感度HARP撮像管の開発」 1994年 大河内記念技術賞「アバランシェ増倍型高感度撮像管の開発」 1996年 全国発明表彰 恩賜発明賞「超高感度撮像管の開発」 2002年 放送文化基金賞「超高感度ハイビジョン新Super-HARPハンディカメラの開発」 2008年 文部科学大臣表彰 科学技術賞「微小血管造影法の研究」 2008年 産学官連携功労者表彰 日本学術会議会長賞「リアルタイム3次元顕微撮像システムの開発及び細胞内分子動態リアルタイム可視化研究」 2012年 前島密賞 2012年 丹羽高柳賞 功績賞「アバランシェ動作方式超高感度高画質撮像デバイスの研究開発」