国民を喜ばせ,国民に夢を与えたというのが一番の褒め言葉国立天文台 台長 林 正彦
国民に喜んでもらえることが最大の業績であり成果
聞き手:それでは今の若手の研究者や教員に対して,天文学・光学に関するメッセージをいただきたいと思います。林:天文学は先進国の学問なのです。ルネサンスが起こって,ヨーロッパは天文学どころか自然科学すべてが発展しました。天文学はヨーロッパの伝統文化だと言われています。経済的に余裕のあるところで発展してきました。
日本でも江戸時代から天文学はありました。20世紀はアメリカが全盛時代で,それに比べて日本の天文学はとても対抗しうるレベルにはありませんでした。
天文学は何の役にも立たないかもしれませんが,天文学ができる国というのは,世界でも限られています。ヨーロッパ先進国・アメリカ・カナダ・オーストラリア,最近日本も入ってきて,台湾・韓国・中国もお金をかけてやろうとしています。本当に天文学のような学問が伸びていける国は,先進国としてそれを許容する社会ができてきたということだと思います。
その意味でも,野辺山の45m望遠鏡,すばる望遠鏡,アルマができて,いまさらに大きな次の望遠鏡がやれているというのは,日本も天文学先進国に対して対等なレベルにきており,成熟した先進国になったと私は実感しています。
みんなに喜んでもらっていることが最大の業績であり成果だと言われているようで,それがいかに重要かが,ようやく私も分かるようになりました。ひたすら天文学でいい成果を挙げることが,天文学の分野から言えば重要なのですが,もっと重要なことはいかにそれを楽しんでもらえるかということです。国民はカスタマーであってその人たちに楽しんでもらえることが重要なのです。
ヨーロッパの人たちは国民を挙げて,科学の成果はみんなで楽しむためにあるのだという精神が徹底しているように思います。日本はまだそこまでのレベルに行っていないと私は思います。それでも,天文学に400億円もかけて,ブラックホールが見つかったと言うと,みんなに「すごい」と喜んでもらえます。日本もそういうことができる国になったのかと。科学の成果を楽しむことのできる精神が,国民の中にできてきたのかと思います。非常に良いと思います。その精神を,もっと多くの人に分かってもらえるといいですね。 <次ページへ続く>
林 正彦(はやし・まさひこ)
1959年:岐阜県生まれ1986年:東京大学大学院理学系研究科博士課程終了,理学博士
1986年:日本学術振興会特別研究員
1987年:東京大学助手
1994年:国立天文台助教授
1998年:国立天文台教授
2010年:東京大学大学院理学系研究科教授
2012年:国立天文台台長
●研究分野
電波天文学,赤外線天文学