【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

いろいろな経験を積むためにも学生にはできるだけ海外で洗礼を受けさせる早稲田大学 教授 中島 啓幾

光には本来のナチュラルな感性を取り戻せる機会がある

聞き手:最後に,これからの光学分野においての若手研究者とか学生,あとは学生を指導している若い先生方に向けて,光学の魅力ですとか,メッセージをいただけますでしょうか。 remark76_3 中島:ものすごく産業規模が巨大化して,分業になってしまって全体が見えないというようなこととは無縁な分野なのですが,オプティクスは奥が深いので,幾ら勉強しても足りないわけです。それから歴史もあります。今年は国際光年ですが,少なくとも1000年の歴史はあるわけです。自然界にはお星さまや太陽や月から始まって,蛍の光や,あるいは深海のお魚も発光などいろいろな現象がありますが,われわれに目があるということは,オプティクスはそこから始まっていたということです。
 一つは,それを今,どういうことに生かしていくか。やはり医療費がこれだけ莫大に増えているので,そこに光の持っている本質的な知恵をうまく生かしていく。異分野,生命や生物分野の人たちとのコラボレーションがどのようにできるのかを考えられたらいいですね。学際的な研究は言うほど簡単ではありませんが,若い方たちは新しい感性で取り組んでくれるものと期待しています。
 一方で,エレクトロニクスの根幹が,シリコンLSIにあることは間違いないので,その延長線上にはない,光でなければできないことが何なのかを見通して先回りすることが肝要でしょう。
 私の定年までに,学内にも何人か関心のあるチャンネルを作りつつあるので,目に見える形にしてここを卒業できればと念じているのですけれども,非常に奥が深いことだけは確かなので,それを知ってもらえる工夫をするといいと思います。オプティクスの本当に面白いところを,高校や中学の先生方とも連携して,学生に見せられるようにする必要があります。実験は短い時間でも割と完結するので,工夫が必要です。そういう現場も拝見したことがあります。
 私は「読む,詳細に見る」よりも,「人と話をする」こと,あるいは,「会議に出て雰囲気をつかむ,眺める」といった,どちらかというと,直感を大切にしています。常に自問自答しながら,そういうセンシティビティーも,特に若い技術者の方には磨いていただきたいのです。それはさかのぼると,子どものころからのものでしょうか。今の子どもたちは,アナログの時代に戻れとは言わないけれども,ネットや動画などの中で生きています。光は,基本,アナログです。光を勉強する機会があれば,何かそういう,本来のナチュラルな感性は取り戻せるのではないかということを訴えたいのです。
 一方で,LSIなどはデジタル,つまりは非線形をベースにしているわけです。リニアに周波数や波長の伸びや,それを感じられる光は,本来のサイエンスだけではなくて,エンジニアリングとしても,いい筋のものではないかなというふうに私自身は思っています。だから,OとEを比べて,もちろんEがないと今日の生活はできないのだけれども,Oにはそうでない補うべき側面があって,その本当にいいところをまだまだ使い切れてはいないのではないかと思うので,伸ばしていけたらいいと思います。 <次ページへ続く>
中島 啓幾(なかじま・ひろちか)

中島 啓幾(なかじま・ひろちか)

1948年 東京都生まれ 1966年 麻布高校卒 1970年 早稲田大学理工学部応用物理学科卒 1972年 早稲田大学大学院理工学研究科修了 1972年~1996年 (株)富士通研究所 1984年~1996年 早稲田大学 非常勤講師 1996年 早稲田大学 教授(現在に至る) 1998年 ボストン大学 客員教授 2001年~2014年 応用物理学会日本光学会微小光学研究グループ 実行委員長 2002年~2014年 日本女子大学 非常勤講師 2003年~2005年 科学技術振興機構(JST)研究開発センタ出向 シニアフェロー 2011年~2013年 応用物理学会 理事(総務担当) 2012年 応用物理学会 春季学術講演会 現地実行委員長
●研究分野
酸化物単結晶を用いた微小光学,光導波路デバイス,光集積回路と応用
●主な活動・受賞歴等
第9回光産業技術振興協会桜井賞受賞(1993年)
第2回応用物理学会フェロー表彰(2007年)
応用物理学会微小光学研究会運営委員長(2015年~)

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